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PubMedID 24270515 Journal Nat Immunol, 2014 Jan;15(1);45-53,
Title Perivascular macrophages mediate neutrophil recruitment during bacterial skin infection.
Author Abtin A, Jain R, ..., Firth N, Weninger W
長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・感染免疫学講座  免疫機能制御学分野    由井克之     2014/01/27

細菌感染における血管近傍マクロファージによる好中球動員
私達は感染のイメージングを行っていますので、感染をテーマにしたイメージングの論文を選んでみました。細菌感染に対しては好中球が早期に動員されて細菌排除に働きますが、好中球動員の制御については十分に理解されていません。この論文では、多光子レーザー顕微鏡により耳介微小血管を観察する系を用い、蛍光蛋白陽性黄色ブドウ球菌と組み合わせることにより、皮膚の細菌感染に対して好中球が動員される仕組みについて解析しています。

研究のポイントは、病原因子のひとつであるαヘモリジン欠損黄色ブドウ球菌株を用いることにより、野性型細菌株では観察困難であった好中球の血管外への遊走の観察を可能にしたことです。その結果、血管内皮近傍の特定のマクロファージがケモカインを産生し、好中球の血管内皮への接着と血管外遊走を促すことを明らかにしています。黄色ブドウ球菌のαヘモリジンは、受容体ADAM10を介して血管内皮近傍マクロファージに壊死を誘導し、好中球の動員を抑制することにより免疫エスケープする仕組みを有しています。この欠損株では、好中球動員抑制がおこらないため、細菌感染に伴う好中球遊走を観察しやすいということのようです。

皮膚を対象にしているので、イメージングに技術的困難はあまりないと思われますが、血管内をローリングしたり血管内皮に接着したりする好中球をきれいに示し、説得力のある論文になっています。論文の後半では、黄色ブドウ球菌感染に伴い血管近傍マクロファージが特異的に消失するイメージングを出しています。樹状細胞やT細胞は消失しない、またαヘモリジン欠損黄色ブドウ球菌ではマクロファージ消失を誘導しない点を陰性コントロールとしています。感染は病原体と宿主細胞とのせめぎ合いであり、その攻防が時々刻々と変化します。本研究では野性型細菌感染とαヘモリジン欠損株感染を比較していますが、観察した現象が病原体数の違いを反映したものではないことなど、対照群の実験条件は慎重に選ぶ必要があります。

イメージングは、視覚に訴えて説得力があります。細胞の動態追尾等については良い解析ソフトがあり定量解析ができますが、細胞の消失等の定量化についてはさらに一工夫必要だと思いました。また、病原体、宿主細胞、血管と解析対象が多くなると、すべて同時に蛍光観察することが困難になります。この論文でも、もう少しモニターする蛍光を増やして血管内外の位置関係が明確にできれば良いと思われる実験データもありました。しかしながら、細菌感染に伴う好中球遊走制御について、イメージングを用いて説得力のあるデータを示しつつ新しい機構を明らかにした点、高く評価できる論文だと思います。
   
   本文引用

1 京都大学大学院医学研究科・病態生物医学教室  松田道行研究室  水野礼 Re:細菌感染における血管近傍マクロファージによる好中球動員 2014/01/30
私は、LPSによるマウス腸管炎症時における好中球リクルートの解析をin vivoで行っていますので、興味深く読ませて頂きました。本論分のように、イメージングの解析を主体に進めて行く研究が増え、広く認められていくことは心強い限りです。

今回、Movieによってはやや気になる点もありましたので、以下に記載します。

?私自身の腸管血管イメージングの経験によると、血管のどの断面を撮影するかによって、観察できる好中球の数や見え方が異なります。血管の直径を通る断面で撮影した場合、血管の中央では血球細胞を捕らえることはほぼ困難ですし、血管の端の方の断面を撮影した場合は、中央部分でも観察でき、接着している血球細胞も見かけ上、多く見えます。今回の論文では、マウス間でその辺の条件が統一されているかが不明で、少し気になりました。

?2DでTime-lapse imagingを行っている場合、イメージング中に撮影面のZ方向のずれの補正をどのようにしているのか気になりました。WTの黄色ブドウ球菌によって、Perivascular Mφの突起が消失していくというMovie7では、確かに突起も消えるのですが、周囲の黄色ブドウ球菌自体の蛍光(赤)も時間経過とともに消失していきます。これはZ方向に撮影面がずれた、または褪色の影響という可能性も考えられるのではないか、と考えてしまいました。

?内容に関しては、腸管の観察時にそれほど意識したことのないPerivascular Mφが、皮膚では血管壁の約40%もの範囲を覆っているという事実に驚きました。Discussionの中で、Perivascular Mφには組織特異性があると書いてあり、腸管でのイメージング時にそれほど気にならないのは、組織特異性によるものかもしれません。(もしくは黄色ブドウ球菌などの細菌特異的?)

いずれにしても、やはりIntravital imagingによるデータは説得力があり、インパクトがあると思いました。私自身も、このようにイメージングを通して、新しいメカニズムの解明につながる研究を目指して行こうという気にさせられました。
      
   本文引用
2 長崎大学・大学院医歯薬学総合研究科・感染免疫学講座  免疫機能制御学分野  由井克之 Re:Re:細菌感染における血管近傍マクロファージによる好中球動員 2014/01/30
コメントありがとうございます。
ご指摘のように、Movie7は時間も短く、マクロファージ周辺が全体にスーとなくなっていく印象で特に気になる動画です。やはりもう一色加えて、T細胞は消えないのにマクロファージだけ消える、或いは樹状細胞は消えないのにマクロファージだけ消えるという動画が欲しいですね。

フローサイトメトリーに使い慣れると多色同時解析は当然ですが、これを多光子レーザー顕微鏡でやろうとすると、一色増やすだけで機器設定の様々な検討や材料作りが必要になり、容易ではありません。将来的には、多光子レーザー顕微鏡もフローサイトメトリー感覚で、多色同時に容易にイメージングできるようになって欲しいと思います。
      
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