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PubMedID 24288335 Journal Science, 2013 Nov 29;342(6162);1107-11,
Title Long-distance integration of nuclear ERK signaling triggered by activation of a few dendritic spines.
Author Zhai S, Ark ED, Parra-Bueno P, Yasuda R
理化学研究所、脳科学総合研究センター  林康紀研究室    実吉岳郎     2014/02/25

シナプスから核への情報伝達
 長期増強現象(LTP)は、記憶の細胞レベルでのモデルと考えられており、短期間の繰り返し刺激によりシナプス伝達効率の増強が長期に渡り保持される現象です。刺激を受けたシナプスが示す増強現象の維持には新規遺伝子発現が必要である事が知られていますが、シナプスから細胞核への情報伝達がどのように伝わるのかは分かっていませんでした。今回、マックスプランクフロリダ研究所の安田涼平博士のグループは、培養海馬スライス標本を材料に、二光子顕微鏡でのグルタミン酸アンケージ、蛍光寿命測定顕微鏡法によるERK活性の測定を組み合わせ、この課題に取り組みました。活性化のモニターはERKセンサーEKAR、GFP-ERK2の核内移行、そしてリン酸化ERK、CREB, Elk1の免疫染色で評価しています。
 さて、シナプス刺激による転写活性化の最小単位は3−7個のシナプスが転写活性化の十分条件で、ひとつの樹状突起由来ではなく複数の樹状突起上にあるシナプスを刺激する必要があることがわかりました。また、複数の刺激は30分間の間を置いても成立し、核から200マイクロメートル離れた樹状突起を刺激しても核でのERKの活性化が見られました。なお核内ERKの活性化状態が刺激後75分後に添加したPKC阻害剤bisindolylmaleimide Iで阻害されるため、ERK活性の維持には持続するPKC活性が必要なこと、すなわちPKC-ERKのポジティブフィードバックループの存在が考えられます。以上、この論文は直径1マイクロメートルほどのシナプス刺激とそこから30マイクロメートル以上離れた直径約20マイクロメートルの核のイメージングという顕微鏡のズームインズームアウトを駆使した手法により、時間的にも空間的にも離れた個別のシナプスでの情報が核で統合される事を示した研究です。今後、樹状突起内を動く(動いているであろう)ERK活性の情報伝達を担う分子の同定、その過程のイメージング、PKCに代表されるシグナル分子間クロストーク解析などが期待されます。
EKARの変化のダイナミックレンジが小さいことや、空間的に散らばった多点刺激だったり、実験条件を決定するのは大変だったろうな、と想像しています。センサーの感度が高くなれば、最小単位はもっと小さくなるかもしれません。
   
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