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PubMedID 24315106 Journal Cell, 2013 Dec 5;155(6);1422-34,
Title Using optogenetics to interrogate the dynamic control of signal transmission by the Ras/Erk module.
Author
国立循環器病研究センター研究所  細胞生物学部    若山 勇紀     2014/03/06

Phy/PIFによるRas/Erkの活性制御
Optogeneticsを用いて光依存的にSosを膜にリクルートすることにより、RasからErkへのsignalが伝わるタイミング、効率、Erkの活性化時間による下流シグナルの変化を解析した論文を紹介させていただきます。
この論文ではRas/Erkカスケードによるシグナル伝達を解析するために、membrane-localized Photochrome B (Phy) とPhotochrome interaction factor (PIF)-Sos-catlystic segmentをNIH3T3に発現させて、光刺激依存的にSosを膜にリクルートさせることによりRas/Erkを活性化しています。Phy/PIFは650nmの光刺激でONに、750nmの光刺激でOFFになり、この反応は可逆的です。
今回著者らはNIH3T3の系を使っており650nmの刺激後、数分でErkの核内移行が起こり、750nmの刺激後は数分以内に核外へと移行します。Sosが膜に移行している時間を変えた結果、光刺激5分間から2時間まででErkの核移行が見られました。このことから、Ras/Erk moduleは短時間の刺激でも活性化されることを著者らは示しています。
次に、Erkの活性化時間によって下流で活性化される因子に違いがあるか検討するため、proteomic screeningを行い、短時間のRas/Erkの活性化でPKCやp90RSKのリン酸化が亢進するのに対し、長時間の活性化ではSNAILの発現量やSTAT3のリン酸化が亢進することを証明しました。また、Phy/PIF-Sosを発現する細胞とcocultureしたWTの細胞もSTAT3のリン酸化が亢進していることから、STAT3のリン酸化はparacrine-signalによるものであることを示しています。
私は血管新生のモデルとしてゼブラフィッシュを使っているのですがin vivoでもPhy/PIFの系でタンパク質の局在を制御できるのかが気になりました。Phy/PIFの光刺激を行うためにはPhycocyanobilin (PCB) を添加する必要があるのですが、生体内で内皮にPCBが十分に取り込まれるよう工夫をしなければならないかもしれません。その点を考えると光刺激依存的に目的タンパク質の局在を制御するためにはcryptochrome 2 (CRY2)/CIBの方が使いやすいかもしれません。
   
   本文引用

1 京都大学大学院医学研究科時空間情報イメージング拠点  松田道行研究室  青木一洋 Re:Phy/PIFによるRas/Erkの活性制御 2014/03/07
紹介ありがとうございます。

私もよく似たことをしていたので、やっぱり世界のどこかで同じようなことをしている人がいるんだなと思った次第です。いくつかコメントを。

・本文中にも書いていましたが、内在性のRasをこの系で活性化してもPI3K−Akt経路が活性化しないことが書いてあり、やっぱりそうだよねと個人的に納得しました。
・Fig2で、この系で18時間Rasを光で活性化させるとNIH-3T3のcell cycleが回ることを示しています。私達はRafを光で恒常的に活性化させたときにはどうやってもcell cycleを回すことができなかったのでRasとRafでやはり違いがあるのかもしれません。
・ただ、光刺激で活性化の周波数を変えたときに、入出力関係がlow-passフィルター特性を示すのは、シグナル伝達的にはほぼ自明(黒田研にいた豊島さんのNature Communicationの仕事などは参考になります)なので、あんまりインパクトがないのでは、と思いました。

以下、余談です。

・AddgeneにWendell Limらがすでにこれらのプラスミドをdepositしているようです。その中に、Optogenetic Akt activation systemというのも入っていて、iSH2-YPF-PIFというコンストラクトもついでにdepositされていました。これはToettcher JE 2011, Nature Methodsで使われています。
・実は同じコンストラクト(PIF-Sos1cat)を私も過去に作っていて、Rasの活性をRaichu-Rasで見るとちゃんと光に応答した活性化、不活性化を示していました。ただ、やはりCRY2-CIBの系の方が実験的に簡単で、結果もクリアだったのでPhyB-PIFの系は使いませんでした。PhyB-PIFのメリットは、750 nmの光で急速にPhyB-PIFの解離を誘導できる点です。CRY2-CIBの場合は解離の時定数がが大体数分くらいですので、これより早い動態を制御したいというのであれば、PhyB-PIFの方が良いと思います。逆に遅くて良いのであれば、CRY2-CIBのほうが簡単たと思います。
・PCBに関して。まずPCBの精製が結構面倒です。有機合成をやっているラボなら簡単だと思います。材料のスピルリナの粉末は大量にあります(どうも牛のエサに混ぜるらしく、最小量で購入したらとんでもない量が届きました・・・)ので、ほしい方はご連絡ください。私も精製しましたが、あまり純度が良くないかもしれません。PCBを添加しても、赤色光で応答する細胞としない細胞があって、系が安定しませんでした。ただ、PCB自体には毒性が無い(ガリガリ君の青い色素はPCBらしい)ので、魚の水槽に入れても問題ないかもしれません。

とりとめのない文章になって済みません。ご参考になれば幸いです。

青木一洋
      
   本文引用


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