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PubMedID 21976697 Journal Mol Biol Cell, 2011 Oct 5; [Epub ahead of print]
Title Development of an optimized backbone of FRET biosensors for kinases and GTPases.
Author Komatsu N, Aoki K, ..., Kamioka Y, Matsuda M
京都大学 生命科学研究科 生体制御学分野   松田研    小松 直貴     2011/11/18

キナーゼ・Gタンパク活性を可視化する1分子型FRETバイオセンサーの最適な骨格
1分子型(分子内)FRETバイオセンサーにおけるFRET効率の変化(以下、ゲイン)はFRETドナー/アクセプター間の距離、および両者の配向(角度)に影響を受けます。特に角度効果を予測することは大変難しく、ゆえにゲインの大きな分子内FRETバイオセンサーの開発には膨大な条件検討が要求されてきました。

今回発表させて頂いた論文では100アミノ酸以上からなるリンカーをバイオセンサーに用いることでドナー/アクセプター間の角度依存性を排除し、距離依存型のバイオセンサーの開発を試みました。これによりバイオセンサー開発の省力化を目指しました。リンカー長さおよび蛍光タンパクの組を最適化した基本骨格を用いることで、当研究室にて以前報告したRaichuおよび類似の構造を持つ分子内FRETバイオセンサーについて、ゲインを2倍から5倍程度向上させることができました。これは本骨格がRaichu型バイオセンサーに幅広く適用できることも示しています。

ポケモンのキャラクターにちなんで”Eevee”と名付けた本骨格が今後のバイオセンサー開発の一助となれば、生みの親としてこれに勝る幸せはありません。バイオセンサー開発を検討されている方がおられましたら、ぜひともご検討頂きたく思います。どうぞよろしくお願い致します。
   
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1 京都大学生命科学研究科  生体制御  松田道行 厚顔無恥のフォロー 2011/11/29
だれもフォローしてくれないので、引き続き宣伝です。
この論文は、MBC誌の最新の月間ダウンロードランキング9位に堂々の入賞を果たしました。
http://www.molbiolcell.org/reports/most-read
結構、注目を集めているということですね。海外からのrequestもたくさん来てます。国内の皆様もよろしく。
      
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2 国立循環器病研究センター研究所  望月研  福原茂朋 細胞毒性 2011/11/29
すばらしい論文おめでとうございます。
これから益々FRETバイオセンサーを用いたシグナル研究が進展するのではないでしょうか。私たちはゼブラフィッシュの血管にFRETバイオセンサーを発現させて、血管形成シグナルを研究していますが、
是非試させて頂ければ有難いです。

1つ、質問があります。
上でも述べましたように、私たちはゼブラフィッシュを用いて、内皮細胞で特異的にFRETバイオセンサー(主にRhoファミリー)を発現するトランスジェニックフィッシュを樹立し、血管ができるときの内皮細胞の形態を制御するシグナルを調べています。
Tgフィッシュを作製する上で、最初に問題だったのは、センサーの発現量が低いことでしたが、その後色々と工夫することで、ある程度センサーを高発現するフィッシュを作ることが出来るようになりました。
しかし、すると今度は、FRETセンサーがドミナントネガティブの効果を持つのか、血管形成が異常なフィッシュが多くみられるようになってしまいました。
今回開発されたFRETセンサーの特徴は、Ligandとsensor間のリンカーを長くすることで、phosphataseやGAPがsensorにアクセスしやすくなりbasalのFRET効率が減少するということでしたが、この時、リガンド領域もフリーになって内在性のシグナル分子との結合が起きやすくなり、ドミネガとしての効果が強くなるといったことはないでしょうか。
FRETセンサーの毒性の問題について、何かアドバイスを頂ければ助かります。
      
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3 京都大学生命科学研究科  生体制御  松田道行 Raichuの毒 2011/11/29
培養細胞ではあまり気づきませんでしたが、たしかに個体レベルにするとRaichuを高発現すると異常を示す細胞が出てきます。EVリンカーにするとベースが下がり、フリーのRas-binding domainが増えるのは確かですが、その分、competitive inhibitionが起きやすくなるという印象は持っておりません。Raichuの生体イメージングは、残念ながら、現時点では発現量をほどほどにするしか手はないようです。血管内皮は、細胞を横から観察するので、どうしても暗い画像になってしまいます。それを克服するために高発現されているのでしょうが、ここは、がんばって発現量が低い状態で画像をとる時にできるだけシグナルを増やす工夫をして逃れてもらうしかないようです。
      
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4 京都大学生命科学研究科  松田道行研  青木一洋 Raichuの毒:考察してみたものの 2011/11/30
福原先生、松田先生コメントありがとうございます。

結論から申し上げますと、私の意見も松田先生の意見と同じです。センサーの発現量を下げてイメージングすることが今のところベターな解決方法だと思います(共焦点や二光子できれいにFRET像をとる条件、みたいなものをフォーラムでdiscussionしてもいいかなとも思います)。ただ、Eeveeシステムにするとligandドメインがよりフリーになって内在性のシグナルを抑制する、ということはあまり考えておりませんでした。面白そうな話題だったので考察してみました。以下の話はRaichu型のバイオセンサーに限ります。

・自分の経験として、Raichu-Rac1, Cdc42, RhoAセンサーを培養細胞に「大過剰に」発現させると、確かにシグナルを抑制する効果が出ます。例えば、Raichu-Rac1の場合は細胞が縮こまりますし、Raichu-RhoAの場合は逆に広がる感じです。これは、それぞれのドミネガ変異体を発現させたときと同じような表現型です。このことから、これらのRaichuはGAPにはあまり影響を及ぼさないが、GEFの抑制、もしくはligandドメインによる内在性GTPaseシグナルの抑制する結果、ドミネガのような表現型が出ると考えられます。
・小松君の論文でも議論しているように、Raichuのligandドメインとsensorドメインとの間の結合は、センサーの開発の過程で、適度な結合の強さの組み合わせを結果的に選別していることが多いです。強すぎるとclose状態にトラップされてしまうからです。例えばRaichu-Rac1のligandドメインであるPAK1-CRIBドメインにEGFPを融合させて活性化型Rac1との結合をイメージングで観察すると、Cdc42-NWaspCRIBの結合などと比較して、実はそれほど結合しません。従って、これは私の個人的な感覚ですが、Raichuによるドミネガ的な効果はligandドメインの寄与よりGEFの阻害による寄与が大きいと思っています。
・GEFはRaichuのopen状態のものと結合すると考えられること、またEeveeシステムはopen状態の分子の割合を増やすことを考えあわせると、Eeveeシステムを組み込んだセンサーはGEFをより阻害すると考えられなくもないです。
・で、実際はどうかというと、RaichuEV-Rac1がRaichu-Rac1より毒性があるかというと、厳密に比較したわけではありませんが、今のところそういう結果は得ていません。RaichuEV-Rac1を安定的に発現する培養細胞株は正常の形態ですし普通に生育します。
・上記の理由としては、細胞内でGEFとバイオセンサーとの結合解離のダイナミクスとか細胞内のGEFの発現量により云々・・・と考えることもできますが、推論に推論を重ねるのはあまりよろしくないですね。

という感じで思考停止してしまいました。現状で結論づけるのは難しそうです。マニアックな話になってしまい、すみませんでした。

プラスミドの供与や質問がありましたら、気軽にご連絡ください。

青木一洋
      
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5 国立循環器病研究センター研究所  望月研  福原茂朋 ありがとうございます 2011/11/30
松田先生、青木さん
大変参考になるコメントを頂きありがとうございます。
現段階では、毒性が出ない程度の量センサーを発現させ、イメージングするのが良いようですね。
青木さんの言うように共焦点や二光子できれいにFRET像をとる条件などをdiscussionさせて頂けると、とてもうれしいです。

福原茂朋
      
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6 理研  細胞機能探索  宮脇敦史 毒の少ないRaichu 2011/11/30
抜本的な対策は、ligand domainとsensor domainを共進化させることだと思われます。この2つのdomainに同時に変異を入れて、GTP/GDP依存的なdomain間相互作用を保存したまま、他の内因性のsensor domainやligand domainと相互作用しないようなものに変えていきます。それでも、変異を入れたligand domainがGEFやGAPの基質になることが重要で、これらを全て満たすように作製していくのは結構大変かもしれません。Raichuの毒の詳細がわかればデザインもかなり楽になるでしょう。かなり昔ですが、私はcameleonにおいてCaMとM13の共進化を行っていました。志半ばで放置し、結局、Amy Palmerが上手く進化させています。
      
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7 理研  細胞機能探索  宮脇敦史 つづき 2011/11/30
もちろん、GEFやGAPを食べてしまうという毒性は相変わらず残ります。むしろ、リンカーを長くすることによってRaichuと内因性のsensor domainやligand domainとの相互作用が心配される様になれば考慮してもよい対策となるでしょう。
      
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8 理研・脳センター  宮脇敦史研究室  さかうえさわのあさこ 青木さまの考察に考察してみます 2011/12/01
FRET型インディケータを考察する場合、open型、close型と分かりやすく図示したりディスカッションしたりしますが、、、実際はどうなのでしょう?観てみたいですが、なかなか実際を観ることは難しそうです。

例えば、Eeveeや、pBS-coupler のようなリンカーを用いて綺麗に設計した場合、まず「ゆるく手をつないだ状態」を作ったと仮定します。そして、活性化フォームになると、「しっかりと手をつなぐ状態」になるんだと思います。その差は小さく感じますが、微小環境における距離や、双極子モーメントの変化量にしては充分に大きいかもしれません。

この仮定からすると、”ligandドメインがよりフリーになって内在性のシグナルを抑制する”という事は考えなくて良さそうです。逆に、Eeveeシステムを用いる以前のコンストラクトは、「手の甲同士で手を繋ごうとしていた」かもしれません。こっちの方が、ligandドメインはフリーにも感じます。

みなさんが求める事は、大きく二つでしょうか。(1)FRET効率を上げること。(2)インディケータの毒性を下げること。  どちらにも貢献できると理想的です。今回のEeveeシステムは、主には(1)に効果を発揮するのだと思いますが、場合によっては(2)にも効果があるのかもしれません。もちろん、(2)は宮脇先生のコメントどおり、分子内共進化を誰かがどこまでも行う事(?)なのかもしれません。まずは私も少量のインディケータを忍ばせ、スパイする事に賛成です。
      
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