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PubMedID 20187057 Journal Chembiochem, 2010 Mar 22;11(5);653-63,
Title Photocontrol of protein activity in cultured cells and zebrafish with one- and two-photon illumination.
Author Sinha DK, Neveu P, ..., Vriz S, Jullien L
理化学研究所・脳センター  シナプス分子機構研究チーム    宮坂信彦     2012/05/07

光による遺伝子発現誘導
以前にこのForumでも取り上げられましたが、私も光で遺伝子発現を誘導できないかと常々考えています。最近では、光によって転写因子のdimerizationを誘導することで、遺伝子発現を誘導するシステムなどが報告されています。しかし論文を読んでみると、充分な遺伝子発現の誘導には持続的な光照射が必要なようで、in vivoで単一細胞レベルの発現誘導を達成するには、このことが障害になるように思います。

ここで紹介する論文は、改変エストロゲン受容体(ERT2)のケージドリガンドを合成し、光照射によってERT2融合タンパク質の核移行を誘導するというものです。ご存知のように、ERT2は人工ステロイドである4-hydroxy tamoxifenと特異的に結合するので、CreリコンビナーゼとERT2の融合タンパク質(CreERT2)は、リガンド依存的に核に移行して機能します。ここで示されているコンセプトは、ケージドリガンドの存在下に任意の細胞へ短時間光照射を行い、floxed STOPの除去による持続的な遺伝子発現を誘導するというものです。この論文ではGFP-nls-ERT2の光による核移行しか見ていませんが、続報(下記のマイナーな雑誌ですが)で実際にin vivoの単一細胞で光照射による遺伝子発現誘導が可能なことを示しています。

神経系ではCre/loxPを利用したBrainbowシステムによって、神経回路を蛍光タンパク質で多重標識し、その結合性を読み解こうという試みがなされています。しかし、細胞タイプ特異的なプロモーターとstochasticなrecombinationの組み合わせだけでは限界があるのも事実です。光照射によるCreの活性化を併用することで、より精細な解析ができるようになるかもしれません。

関連文献:
Sinha et al., (2010) Photoactivation of the CreER T2 recombinase for conditional site-specific recombination with high spatiotemporal resolution. Zebrafish 7, 199-204.
   
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1 京都大学生命科学研究科 生体制御学分野  松田研  櫻井敦朗 続報見ました。 2012/05/13
論文紹介ありがとうございます。

このシステムを使うことが出来れば単一細胞でrecombinationを誘導して、その単一細胞レベルでの解析ができ、非常に有用だと思いました。続報の論文ではCreERT2のmRNAをマイクロインジェクションで導入していましたが、ゲノムにCreを組み込んでも同様の効率で発現誘導ができるのかが気になりました。もちろん何のプロモーターを使うかにもよるとは思いますが。
      
   本文引用
2 理化学研究所・脳センター  シナプス分子機構研究チーム  宮坂信彦 光によるCreの活性化 2012/05/13
コメントありがとうございます。
ゼブラフィッシュの稚魚では、mRNAのインジェクションにより容易にユビキタスな発現を誘導できるので、この方法を用いたのだと思います。ご指摘のように、doube Tg フィッシュでどの程度うまくシステムが動くのかについては、今後の検証が必要です。Creとfloxedエフェクターのプロモーターを工夫することで、より精度の高い発現誘導ができるのではと期待しています。

このシステムの問題点として、ケージドリガンドをいかにして標的組織にとどけるかということがあげられます。ゼブラフィッシュの稚魚や組織培養系では、飼育水や培養液中にリガンドを入れておくだけでよいようですが、ゼブラフィッシュの成魚やマウスではそう簡単ではないと思います。ケージドリガンドなしで、直接 Cre recombinase を光でコントロールするシステムができれば、応用範囲はさらに広がると思うのですが・・。
      
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