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PubMedID 21423166 Journal Nature, 2011 Apr 7;472(7341);100-4,
Title Local, persistent activation of Rho GTPases during plasticity of single dendritic spines.
Author Murakoshi H, Wang H, Yasuda R
京都大学 生命科学研究科 生体制御学分野  松田道行研    後藤 明弘     2011/04/29

シナプス可塑性におけるRhoファミリー
ケイジドグルタミン酸を二光子励起することで、グルタミン酸を単一スパインに局所投与する手法を用いています。
海馬CA1錐体細胞の単一スパインにグルタミン酸を反復的に投与すると、数秒以内にスパイン頭部が増大し、その増大は1時間ほど持続します。
この形態変化こそが、シナプス可塑性、長期増強(LTP)の形態基盤であり、メモリー素子として機能していると考えられています( Matsuzaki et al. Nature 429(2004)761)。
本論文では、その形態変化の際のRho, Cdc42のシグナルを、FRETを用いて検討しています。
RhoとCdc42はグルタミン酸投与直後に一過性の活性を示し、その後、ある程度の活性を30分以上維持します。
また、Rhoの活性は、刺激したスパインから5umほど伝播しますが、Cdc42の活性は刺激したスパインに留まります。
また、Rhoの活性はグルタミン酸投与直後の頭部増大に重要で、Cdc42はその後の持続的な増大に重要であることを示しています。
細かいシグナル経路や、活性制御の説明は少ないですが、人の精神活動に重要な「記憶」のメカニズムを説明しうるモデルを、アクチン骨格レベルで検討できたのはとても意義深いことだと思います。
   
   本文引用

1 愛媛大学大学院医学系研究科分子病態医学分野  今村研究室  本藏 直樹 元専門家 2011/05/17
もともと類似研究をしていたので、コメントします。

面白い研究なのですが、色々と重要なところが抜け落ちているのが気になる論文です。


まずはコメント改正及び追加

 その増大は少なくとも1時間以上持続します。(同様の研究では数日から年単位のオーダー) 《これよりも短いものは総じてSTP(Short-Time Potentiation)と言われています。≠LTP 》
過去の研究も含めてこれらの結果からメモリー素子であると推定しているわけです。
さらにアクチン線維の動態から、メモリー容量変化と考えらるスパインの体積変動が、アクチン線維の寿命と動態から決定されることを、Imagingによって明らかにしている。(メモリーゲル仮説)

その上で本論文を見てみると、

疑問点
スパイン体積増大〈LTE(Long-term enlargement)〉 がこの方法論(2光子励起ケイジドグルタミン酸法)で起こり得る元スパイン体積は0.1μm^3以下となる筈だが記載されていない。

その上で
もとのRhoAおよびCdc42の活性化がちゃんと規定されていない。
SFig.4.で行っているが、体積変動が伴う0.1μm^3以下のスパインに対しては計測していない??(referee, editor しっかりしないとね。)ということはsFig.4は意味のないデータということになる。

ネガティブなまとめだと
すなわちもともとスパイン体積に依存してもとのsmall G protein活性が異なっている。(画像からはそう見えるが。)
よって体積が大きくなったら、活性が上がったように見える。
でおしまいのような気もするが、どのように捉えていますでしょうか?

細かいところ
本実験では1時間以上行っていないため定義的にはSTPしか見ていないことになる。

など

ポジティブなまとめ
アクチン線維の動態(メモリーゲル仮説)を制御する因子が、どのような動きをするか確認されたこと。以前の研究で行われていたRasなどとの違いが一部明記されたこと。
など
      
   本文引用
2 東京理科大学生命科学研究所  中村研  中村岳史 シグナル屋から見た時の面白さ 2011/06/07
安田先生が自身のブログで書かれているように「論文の2本分のデータが入っている」内容でデータの完成度が高い(隙のない)論文である。特に重要なのは、LTPを誘導する刺激後ごく短期間しか続かないCa2+-CAMKIIの活性化がRho GTPases(RhoA, Cdc42)のレベルで持続的なシグナルに変換されるということを実証したことにあるだろう。このような”signal memory”は生理的機能を考えると必須なはずであるが、以前にN-WASPのリン酸化による制御で示されている程度で、まだまだ実例が少ない。transient signal→sustained signalの変換の機構が今後明らかになってくると、同様のことがどの程度一般化できるかについての見通しが得られるだろう。

気になる点として、mCherry-RBD-mCherryがspine enlargementを阻害していないという点はデータで示されているが正直なところ本当だろうかという気持ちが残る。またこの論文ではRac1についての言及がないが、これまでの研究でstructural plasticityとRho GTPasesについて一番しっかりしたデータがあるのはRac1であり、今回の研究の対象にRac1も入っていたことが想像されるのでそのデータが出てきていないのは、Rac1での同様の試みがRBDの阻害効果などでうまくいかないのかもしれないという気もする。またRhoAとCdc42の活性の広がる範囲が大きく異なるのは非常に面白いが、これが”GEFとGAPのバランス”の空間分布が両者で異なることによるのか、Cdc42のintrinsicなGTPase活性がRhoAのそれに比べてかなり高いことによるのかという次の疑問が出てくる。以前私たちのグループはneurite tipsでCdc42の活性化がRac1のそれに比べて限局していることを示したが、Cdc42にはその活性化を限局するような一般的なメカニズムがあるのかもしれない。

RhoA, Cdc42の下流について、shRNAおよび阻害剤でのデータはしっかり提示されているが、RhoAの下流がROCKであるとしていることについてはそのまま受け入れるのには抵抗がある。ROCKが活性化されることがspine enlargementに必要だという考え方は現時点での一般的意見と異なるので、myosinII阻害剤での実験やmDiaについてのshRNAの実験などでさらに解析を深めることが必要ではないかと思う。

いくつもopen questionsを生んでいる点でも非常に意味のある仕事だと思う。
      
   本文引用


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