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PubMedID 22641383 Journal J Exp Med, 2012 May 28; [Epub ahead of print]
Title Programmed cell death 1 forms negative costimulatory microclusters that directly inhibit T cell receptor signaling by recruiting phosphatase SHP2.
Author Yokosuka T, Takamatsu M, ..., Azuma M, Saito T
理化学研究所 免疫・アレルギー 免疫シグナル研究グループ  斉藤隆研    横須賀忠     2012/05/30

T細胞副刺激受容体PD-1のマイクロクラスター形成とT細胞抑制機構
技術的なアドバンテージはございませんが、T細胞活性化を抑制するシグナル伝達機構のイメージング解析を行いましたので、ご報告致します。今後に繋がる技術的なご提案ご意見等がございましたらご教示下さい。

私は7年前より、T細胞受容体(TCR)がマルチタスク受容体として機能するメカニズムを知るため、さまざまなT細胞活性化状態におけるTCRの可視化を行ってきました。そこで見出したのは、T細胞が抗原提示細胞と接着、TCRが抗原+MHCに結合しますと、TCRは20-30個を単位にクラスターとなり、TCR下流のシグナル伝達分子をリクルートし、T細胞活性化を惹起するシグナルソーム「TCRマイクロクラスター」として機能することです。
また、T細胞の活性化は、TCRからのシグナル以外に、さまざまな補助刺激受容体シグナルの制御を受けています。後の私どもの研究により、正の補助刺激受容体CD28は、NF-κB経路上流のキナーゼPKCθと足場蛋白CARMA-1をリクルートし、T細胞―抗原提示細胞接着面の中央に、TCRマイクロクラスターとは別のシグナルソームを形成することが分かりました。これは、TCRマイクロクラスターが、細胞骨格やMAKP経路を制御するTCR近傍の早い(秒の単位)シグナルを担うことに対し、CD28は比較的遅い(分の単位)NF-κB経路の別のシグナルソームを形成することを示しています。

T細胞にはCD28の他に、“負”の補助刺激受容体CTLA-4とPD-1が存在します。この二つの補助刺激受容体は、一度活性化したT細胞に1―2日を経て発現し、フォスファターゼSHP1とSHP2をリクルートし、TCRからの過剰な活性化シグナルを抑制していると考えられております。今回、私は、PD-1のイメージング解析を行うことで、PD-1がリガンドとの結合を機にTCRマイクロクラスターに集まり、特異的にフォスファターゼSHP2をリクルートし、TCRマイクロクラスターにリクルートして来るシグナル伝達分子を直接脱リン酸化することで、TCRシグナルを遮断していることを明らかにしました。PD-1キメラ分子を用いて、クラスタリングは正常に起こる一方TCRマイクロクラスターと共局在しないような条件(マイクロクラスターに集まる為には細胞外領域の高さが10nm以下になる必要があります)を作成しますと、たとえフォスファターゼがリクルートしてもT細胞抑制効果は消失すること、また、SHP1を付加したPD-1でもTCRマイクロクラスターに凝集できればT細胞抑制活性を回復することから、フォスファターゼの基質特異性ではなく、PD-1とフォスファターゼの細胞内の局在がTCRシグナルの抑制効果に影響することが分かりました。

以前の私どもの解析から、CTLA-4は、フォスファターゼのリクルートがなくとも、リガンド結合を拮抗阻害することによってCD28―NF-κB活性中心を破壊し、T細胞活性を抑制することが明らかになっております。これらのことから、二つの負の補助刺激受容体PD-1とCTLA-4は、細胞膜上でのクラスター形成の空間的・時間的な違いによって、TCR近傍の早期シグナルとNF-κB経路の晩期シグナルをそれぞれ制御していることが分かりました。シグナルソームによるT細胞活性化制御のダイナミズムの一例と思います。
   
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1 京都大学生命科学研究科  生体制御学  松田道行 イメージングの威力が発揮されてますね。 2012/06/05
おめでとうございます。昨年、一部のデータを見せていただきましたが、多くのマウスのデータなどが追加されてSHP2のTCRにおける役割がきれいに示されていて素晴らしいと思いました。タイムラブスイメージングの威力を存分に発揮していますね。

SHP1とSHP2の違いについては、Chimeraのデータから、”the localization rather than the substrate specificity of phosphatases is more critical”と結論づけていますが、Fig5のSusbrate trapping mutantのデータをみると、Phosphataseの親和性がやはりSHP2のほうがずっと強いように思います。

細かいですが、Cool SNAP HG→HQですかね。
      
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2 理化学研究所 免疫・アレルギー 免疫シグナル研究グループ  斉藤隆研  横須賀忠 SHP1とSHP2のDominance 2012/06/05
松田先生ありがとうございます。イメージングで得られた情報をいかにして生理的現象に結びつけるか、Immunologyの命題でしょうか。どのような革新的技術が私のフィールドでどう使えるのか、他の先生方のご発表から勉強させて頂きたいと思います。

おっしゃるとおり、Phosphataseの親和性はSHP2の方が強いですが、これはPD-1とSHP2の親和性を示しています。PD-1をクロスリンクしますと、SHP2がリクルートし、そのシグナルソームに共局在するシグナル伝達分子を脱リン酸化します。しかし、PD-1とSHP1を共有結合で繋げ、PD-1をクロスリンクしますと、SHP2以上にTCR下流のシグナル伝達分子は脱リン酸化されますので、SHP1もPD-1のシグナルソームにリクルートさえすれば酵素活性を発揮出来る訳です。このことは、Phosphatase自身が基質を選択しているのではなく、Phosphataseの局在が基質を決定していることを示していて、局在自体が広い意味での基質特異性の規定要素の1つなのだと思います。こうなりますと、この英語の表現は矛盾してきますが、一般的な酵素と基質の単純な特異性と考えてください。

今回のSHP2のPD-1へのリクルートは非常に短く、20秒前後でした。どちらもclusteringしてくれましたので、何とかFRET効率を計算できましたが、どちらかがhomogenousに分布していますと、やはり難しいです。Rasは膜分画に局在するだけでTCR刺激依存的にはclusteringせず、一方TCR刺激依存的にclusteringするGEFとのFRETは容易くは行かないようです。

Cool SNAP HQの単純ミスです。以後、訂正致します。
      
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