FLI Forum
トップ検索ご質問

PubMedID 22246323 Journal Nature, 2012 Jan 26;481(7382);520-4,
Title Multi-isotope imaging mass spectrometry reveals slow protein turnover in hair-cell stereocilia.
Author Zhang DS, Piazza V, ..., Corey DP, Lechene CP
神戸大学・バイオシグナル研究センター  齋藤尚亮研    上山健彦     2012/06/06

【背景】聴覚を司る内耳有毛細胞は、その頂表面にアクチンフィラメントで構成される不動毛を有する。不動毛内のアクチン代謝回転については、以前に新生仔ラット初代培養有毛細胞にβ-actin–GFPを導入した実験により、アクチンが不動毛の先端から基部に向かって約48時間で更新されること(トレッドミル状態、2.5 m/day)が報告されていた。【方法】本研究では、15 N-ロイシンを含む餌を動物に与え、多重同位体画像化質量分析法を用いて、不動毛内のタンパク質(すなわちアクチンを意味する:アクチンは不動毛内のタンパク質の 50-60 % を占める)の代謝回転を定量した。【結果】以前の報告とは異なり、成体カエル、成体マウス、新生仔マウスのいずれにおいても、in vivo および in vitroの実験においても、不動毛は極めて安定であり、不動毛で新たに合成されたタンパク質は24時間当たり10% 以下であった。さらに、迅速なタンパク質代謝回転は不動毛の先端部分のみで起こり、トレッドミル状態は観察されなかった。これらの結論は、有毛細胞特異的にβ-actin–GFPを発現するマウス由来の初代培養有毛細胞を用いたFLAP実験やactin (-あるいは -) の発現をタモキシフェン誘導性に停止させたマウス由来の有毛細胞を用いた実験でも裏づけられた。

この論文を読み、我々が作製した正常聴覚獲得後に進行性難聴を呈するマウスについて考察してみた。我々の難聴マウスの原因は、不動毛でのアクチン代謝の障害であることを突きとめているが、完全な難聴に至るまでに約6週間を要する。以前の報告のように、不動毛内のアクチンフィラメント入れ替えが約2日で起こるなら、何故我々のマウスの難聴が完成するまでに6週間もの期間を要するのかが疑問であったが、本論文を読んで、我々のマウスの表現型が合点のいくもののように思われた。また、迅速なアクチン代謝回転が不動毛の先端部分のみで起こっているという結果も、我々にとっては、非常に面白い結果であった。
   
   本文引用



Copyright 「細胞機能と分子活性の多次元蛍光生体イメージング」事務局