PubMedID | 22426226 | Journal | Nat Commun, 2012;705, |
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Title | Intracellular temperature mapping with a fluorescent polymeric thermometer and fluorescence lifetime imaging microscopy. | ||
Author | Okabe K, Inada N, ..., Funatsu T, Uchiyama S |
東京大学の内山先生らのグループが生細胞内での温度分布を可視化するプローブを報告されました。
以前にも、温度変化により構造の変わる高分子でできた微小ゲルに蛍光色素を結合させることで、温度依存性の蛍光強度を実現し、1細胞レベルで温度測定されていましたが、今回は小さくすると同時に凝集しにくくする工夫で細胞内小器官の温度測定に成功しています。さらに温度依存的な蛍光寿命(30度で5.06nx、38度で7.09ns)のイメージングにより、0.18-0.58度の精度を得ています。細胞核が細胞質に対して0.96度高いことや、さらに中心体で温度上昇がみられることなどの高解像度で温度測定を行っています。今は細胞質内に注入しないといけないプローブですが、遺伝的に発現できるようなタイプが開発されると面白いですね。新しいツールができると何か自分の研究に使えないか妄想が膨らみます。受精する精子は熱いのか?卵子は意外とクールなのか?などなど。
1 | 東北大学 多元物質科学研究所 石島研 石島秋彦 | 細胞熱発生について | 2012/06/11 |
東北大学 多元物質科学研究所 石島秋彦です.
松田さんからのご指名により,コメントをアップさせていただきます. さて,細胞の熱計測ですが,我々の研究室でもカンチレバーを使って計測を試みています. 褐色脂肪細胞の産生熱の計測を試みていますが,なんとか計測できるようになりました. しかし,一番の問題は, 水への散逸を考えると,温度はすぐに平衡になる という点です. 我々の結果の問題点は, カンチレバーを変位させるほどの温度上昇を維持するには莫大なエネルギー (予想値の千倍)産生が必要 という点です. これはCOMSOLという有限要素のソフトからの比較です. この論文では,核が約1度の上昇,ということですが,つまり, 核と細胞質で,1度の温度差を維持できる システム(単純に言うと断熱)が必要となります. さらに,水,ガラス基板への熱の逃げを考慮した際に,どの程度の産生熱(エネルギー)が必要かも気になりますね(論文では,℃,の検討だけで,J,Wの議論がないですね). このコメントは,決してこの論文が間違ったことを言っている,ということではなく,既存のシミュレーションと大幅に異なるということが想像されます(我々の結果も同様の問題を含んでいます). もしかしたら,シミュレーション自体がミクロな物性を再現できない,ということも想像されますね. FLIMにおいて,二つの指数関数の和で表される,とありましたが,最初どうしてなのかわかりませんでしたが,計算したら確かに,和,になりました.... > 東京大学の内山先生らのグループが生細胞内での温度分布を可視化するプローブを報告されました。 > 以前にも、温度変化により構造の変わる高分子でできた微小ゲルに蛍光色素を結合させることで、温度依存性の蛍光強度を実現し、1細胞レベルで温度測定されていましたが、今回は小さくすると同時に凝集しにくくする工夫で細胞内小器官の温度測定に成功しています。さらに温度依存的な蛍光寿命(30度で5.06nx、38度で7.09ns)のイメージングにより、0.18-0.58度の精度を得ています。細胞核が細胞質に対して0.96度高いことや、さらに中心体で温度上昇がみられることなどの高解像度で温度測定を行っています。今は細胞質内に注入しないといけないプローブですが、遺伝的に発現できるようなタイプが開発されると面白いですね。新しいツールができると何か自分の研究に使えないか妄想が膨らみます。受精する精子は熱いのか?卵子は意外とクールなのか?などなど。 > |
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2 | 東北大・多元研 石島研 井上 裕一 | 温度分布 | 2012/06/11 |
石島研の井上です。
1細胞熱計測についての計算、およびカーボンナノチューブを用いた温度制御実験を行っています。 細胞の温度分布が度単位であるのかと率直に驚いています。 水中での温度分布がmKオーダーか、uKオーダーかと議論しているところだったので、その1000倍以上の温度分布が細胞内にあることは、細胞が(たぶん膜が)断熱性が高いということでしょうか。 度単位の温度分布が本当であれば、通常の蛍光色素やGFPでも同様の実験がある程度可能になるのではないでしょうか。もちろん退色がクリティカルな問題かと思いますが、例えば分布でなく同じ位置での温度時間変化とか。外部熱でもよろしければ局所的に素早く10℃程度加熱することはできています。(ただしまだin vitroですが) |
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3 | 京都大学生命科学研究科 生体制御学 松田道行 | FLIM-FRET | 2012/06/12 |
石島研のみなさま、コメントありがとうございました。わたしはきれいなFLIM-FRETだなということ、FLIMはなかなかS/Nが上がらないのによくここまでの解像度が出たなというところで感心しておりました。細胞内の局所で1度の温度差というものを出すためには相当な断熱性が必要だろうというのは直感的にはわかります。だからこそ計測が大事だという結論でしょうか。 | |||
4 | 東北大学多元物質科学研究所 石島研究室 佐藤 政秋 | 細胞外部への熱の逃げ | 2012/06/13 |
石島研でポスドクを務めております佐藤と申します.
1褐色脂肪細胞の発熱量の計測実験を行っております. 局所的に熱産生が起こったとしても,細胞内外にすぐに 拡散してしまうと考えていたので,この結果を非常に興味深く思っております. 細胞内部に存在する℃単位の温度が,細胞外部の溶液にどのくらい 伝わるのか気になっております. 発生した熱が外部へ容易に逃げていくのであれば, 10の5乗や6乗オーダーのCOS-7を数百マイクロリットルの溶液に移し, FCCPで刺激したら,一般的な熱電対でも溶液の温度上昇が測定できそうです. 熱電対で測れないのだとしたら,細胞膜の断熱性が相当高いということに なるのかもしれません. |
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5 | 名古屋大学医学部細胞生物学 宮田卓樹研究室 榊原明 | 微小管内側の温度? | 2012/06/13 |
お話が盛り上がっているところ、素人質問になりますが、断熱性という観点からみて、微小管のような蛋白質で出来た管状構造の内側に熱がこもるという可能性はあるのでしょうか?
この論文では中心体の温度が高いといっていますが、中心体(蛍光観察の場合500nmくらいにみえるはず)よりも大きなスポットで温度が上昇しているように見えるのが気になっています。微小管の内径(15nmくらい)を考えると蛍光プローブが内側に入り込んでしまう状況が考えられ(出入りは中心体とは反対側のプラス端側のみで可能か?)、その場合、中心体近辺には微小管が沢山密集しているので微小管内部の温度が外側よりも高ければ中心体の周囲に高温のスポットが検出されるのではないかと感じました。もしかすると、中心体そのものが熱いからなのかもしれませんが、それを取り巻く微小管の温度も高くなっているのではないでしょうか? |
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