PubMedID | 22327568 | Journal | Nat Immunol, 2012 Mar;13(3);272-82, |
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Title | Body-barrier surveillance by epidermal γδ TCRs. | ||
Author | Chodaczek G, Papanna V, Zal MA, Zal T |
免疫の分野以外ではあまり知られていないかもしれませんが、皮膚の顆粒層直下の有棘層内には、樹状形態を示す特殊なT細胞が常在しており、皮膚のバリアー機能や感染などを監視しています。これらは同じ領域に分布する比較的良く知られたランゲルハンス細胞(抗原提示細胞である樹状細胞)とは異なる細胞で、胎児期の胸腺に由来する歴としたT細胞です。かなりの数が存在しおり、多様性の少ないγδ型T細胞受容体を発現し、生涯にわたってその場でゆっくりと自己増殖することにより細胞集団が維持されていると言われていますが、これまでその実像はあまりよく分かっていませんでした。
この論文では、上皮γδT細胞(DETC; dendritic epidermal T cell)にGFPが発現するマウスを用いて、DETCの形態やその維持に必要な分子の局在とシグナル、動態などに関して詳細な観察を行なっています。耳の表皮を観察していますが、まさにこの目的に最適の場所というか、耳だから出来たという感じです。興味深い点は、1)DETCの樹状突起の先端が顆粒層2列目の上皮細胞つくるタイトジャンクション内もしくは直下に伸びていること(三次元的にも面白い形態をしています)、2)その部分にγδT細胞受容体が集積し、定常状態で常にシグナルを入れていること、3)そのシグナルが細胞形態に重要であること、4)樹状突起先端は比較的安定して顆粒層に「アンカー」されているが、ゆっくりと縮退して新しい突起に置き換わっていることなどが挙げられます。T細胞受容体の集積部分を詳しく観察すると、バリエーションはあるものの、いわゆる「免疫シナプス」に似た構造をとる場合が多いようです。それ以外にもあれこれ観察をしていますが、ボリューム満点でお腹いっぱいです。
しかし、免疫学的な意義もさることながら、イメージングという観点からすごいなと思ったことは、ライブイメージングで細胞動態を観察した後、すぐに組織を固定して、ライブで注目したのと同じ細胞について分子局在やそのリン酸化を検出し、樹状突起の動きとシグナルなどを関連づけていることです。実際にどのようにして同じ細胞を見付けだすのかに関してはあまり良くフォロー出来ていませんが、どうやら何らかのランドマークあるいは細胞の分布パターンを自動的に検出して、同領域を探し出すというような画像解析システムを組んでいるようです。恐らくライブ観察の時に耳介のある領域をマーキングしておいて、その領域内を観察し、固定・染色後の観察で、細胞分布や形態、もしくはもっと厳密なランドマークを用いて同じ領域を探すという類いのものでしょうか。このような手法に関してどなたか詳しくご存知の方がいましたら、ご説明いただけると助かります。
もうひとつは、同様の手法だと思いますが、ある領域内のDETCの長期的な挙動を、実に4週間以上も継続して観察しています。DETCはほとんど移動しませんが、長期的にみると少しずつ動いていて、先にDETCがその場で増殖して集団を維持していると言いましたが、細胞が分裂した後の「系譜」を追跡することに成功しています。その間ずっとマウスを固定している訳にはいかないでしょうから、やはり、経時的にある領域を見つけ出して、その部分の三次元的なスナップショットを取り貯めていくのだと思います。これ以外にも、色々と画像を定量化する手法がとられていて、私としてはなかなか学ぶべきところが多い報告でした。
1 | 京都大学医学研究科病態生物医学 京大松田研 平塚 徹 | マウス耳の皮膚での同じ領域の同定 | 2012/07/03 |
片貝先生ありがとうございます。樹状γδT細胞の論文、読ませていただきました。
確かにこの論文では、rapid fixationと同じ皮膚領域の長期観察によって一気に話の幅が広がっている印象です。 私も普段、耳の皮膚を2光子顕微鏡で観察しており、同じ領域を60日以上フォローしています。紹介の論文では何らかの自動解析プラグラムを使っているということでしたが、私の場合ではそれを自分の目で行ってます。 具体的には、毛根の配列(毛根はSHGで真皮コラーゲンを観察すると黒く抜けた丸い領域に見えます)を利用しています。マルチエリアの観察によって「毛根マップ」をあらかじめ作っておき、別の日に観察したエリアの毛根の配列をそのマップと照らし合わせて同じ領域を探し出しています。 しかし、この方法はかなり難しいというのが正直なところです。 1.皮膚に伸縮性があり、毛根同士の距離が微妙にかわる 2.耳の固定角度が実験のたびに全く同じにはならない 3.毛根の深さが毛根によってバラつきがあり、一枚の平面像の中に全ての毛根が収まらないことがよくある。 といった原因があげられます。 毛根の配列を自動で検出するプログラムを作ることも考えられましたが、以上のような理由から難しいのではないかと断念した経緯があります。 他にもっと効率的な方法をご存じの先生方がいらっしゃれば是非教えていただきたいと思います。 |
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2 | 関西医科大学附属生命医学研究所・分子遺伝学部門 木梨達雄研 片貝智哉 | 2012/07/07 | |
平塚先生
早速のコメントありがとうございます。 同様の手法で実際に耳の長期観察を行なっている方が、近くにおられるとは思いませんでした。しかし、挙げていただいたようないくつかの問題点は想像に難くなく、ご苦労されているようですね。 DETCは個々の細胞は小さく、追跡している領域もそれほど広くないので、このような観察が可能なのかもしれません。個々の細胞内の樹状突起の解析ではあまり問題にならないとか、組織のゆがみも細胞の動きと区別できないだけかもしれませんし。毛根のような大きな構造全体を捉えようとすると、毎回の変化が無視できないレベルであるということでしょうか。そのような組織の巨視的な変動を補正してくれるような画像解析プログラムがあれば嬉しですね。 今後、何か技術的な進展がありましたら、教えていただければと思います。 |
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