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PubMedID 22763440 Journal Nature, 2012 Jul 5;487(7405);64-9,
Title Biophysical mechanism of T-cell receptor triggering in a reconstituted system.
Author James JR, Vale RD
京都大学医学研究科  次世代免疫制御を目指す創薬医学融合拠点  戸村グループ    戸村 道夫     2012/07/30

シグナル関連分子を再構成した細胞を用いたT細胞活性化機序の解析
 血球系同士に限らず、血球系細胞と組織細胞のcell-cell contactによる相互作用を考察、解析していく上で有用な情報だと思いましたので、紹介します。
 T細胞の活性化は、T細胞受容体(TCR)が、抗原提示細胞上のpMHC (主要組織適合複合体+ ペプチド)と相互作用することにより開始されます。しかし、TCRは細胞内にキナーゼドメインを持たず、この相互作用がどのようにTCR下流の細胞内リン酸化を誘導するのかの詳細はcontroversialな状態です。
 この論文では、TCRとそれに関連するシグナル伝達分子を非免疫細胞に導入した細胞を作製し、抗原提示細胞と接触した際のリガンド特異的なシグナル伝達を再構築して、in vitro 培養系で可視化解析しています。そして、TCRのシグナル伝達にはホスファターゼであるCD45が、TCR-pMHCが形成された細胞膜領域(この部分の細胞内領域には、TCR下流のkinaseが TCRの細胞内ドメインに結合し集積している)から隔離される必要があること示しています。更に、TCR–pMHCについて、TCRの細胞名領域以外を、それぞれ、他のタンパク質と化合物に置き換えた場合でも、TCR–pMHCと同様、CD45のTCR-pMHC領域からの排除が認められたことから、 細胞外のタンパク質–タンパク質相互作用の結合エネルギーが、膜貫通部分のコンホメーション変化を伴わずに膜タンパク質の空間的な分離を推進可能であることを示しています。この一般的な機序は、外因性のキナーゼに依存するほかの受容体にも拡大できると考えられる、とのことです。
 TCR–pMHC相互作用は、TCR及び、MHCに提示されるペプチドの多様性がもたらすaffinityの強弱も含めて考察する必要があると考えらので、TCRのconformational changeやaggregationなど今までに提唱されているメカニズムの関与については、さらに詳細な解析が必要だと考えます。ただ方法論的には、従来の一つ一つの分子発現を無くす、あるいは、強制発現した実験系での解析に比べると、解析したい複数の分子を細胞に導入して解析する方法は artificialな実験系とはいえ、一つのアプローチ法だと考えられます。この論文でT細胞活性化シグナルの初期過程についてどの程度まで、はっきりしたことが言えるのか等、免疫系に関わる班員の先生も複数おられますのでコメントを頂けたら幸いです。
   
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1 京都大学生命科学研究科 高次生命科学専攻  松田道行研  定家和佳子 2012/08/17
ご紹介ありがとうございます。Forumに投稿されてから時間がたっており恐縮ですが、2つの手法が興味深いと思ったのでコメントさせてください。

1つ目は、非免疫細胞で免疫シグナルに関与する分子を強制発現させる方法です。この方法により免疫シグナルを伝えるのに必要な最小限の要素を見出すことができたことは大きな進歩だと考えます。ただしこの方法では、注目する分子を強制発現させて解析しているため、実際の免疫細胞の分子数が異なります。今後はシグナルを構成する分子数や分子活性について、定量的に議論する必要があるのではないかと思いました。

2つ目は、Fig.4 B内で用いられている ‘ subdiffraction-resolution method’ です。この論文では、相互作用している2細胞にそれぞれ結合している2つの膜タンパク質、GFP-tagged TCRとmCherry-pMHC間の距離を測定するのにこの方法を用いています。通常のconfocalでは光の回折のため、解像度の限界は200-300 nm程度です。この値は相互作用している2細胞間の距離よりも大きいため、本来であれば前述の2タンパク質の距離を測定するのは難しいはずです。しかし‘ subdiffraction-resolution method’では、ラインスキャン用のアルゴリズムや蛍光チャネルの設定を工夫することで、30 nm程度の解像度を実現し、この問題を解決しているようです。イメージングの手法としても工夫されており、興味深いと思いました。こちらの詳細は複雑だったので、光学系に詳しい先生方のご意見をいただければうれしいです。
      
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