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PubMedID 22872089 Journal Development, 2012 Sep;139(17);3242-7,
Title Multilayer mounting enables long-term imaging of zebrafish development in a light sheet microscope.
Author Kaufmann A, Mickoleit M, Weber M, Huisken J
国立循環器病研究センター研究所 細胞生物学部   望月研    中嶋洋行     2012/08/13

光シート顕微鏡によるゼブラフィッシュの長時間タイムラプスイメージング
光シート顕微鏡を用いたtechnical paperを紹介します。

SPIM (selective plane illumination microscopy)やDSLM (digital scanned laser light sheet fluorescence microscopy)などの光シート顕微鏡は、シート状の励起光を検出軸に対して垂直に照射して焦点面のみを励起させることで深部観察が極めて低侵襲性で行えることから、長時間(数時間から数日のオーダー)に亘る生体内ライブイメージングに適した方法であるといわれています。

この論文では、発生過程のゼブラフィッシュを静止させたままmSPIMで長期間観察するための至適条件を検討しており、エチレンプロピレンのチューブに魚を入れてから低濃度のTricaine(麻酔)とごく微量のアガロースを用いることで、発生過程にほとんど影響が出ずに魚を静止させる条件を見出しています。筆者らは、血管が光る魚で10分毎にスタック画像の撮影を行い、受精後1日目から4日目までの長時間に亘る血管の発生過程を胚全体でクリアに撮影することに成功しています。

蛍光の暗い生体サンプルほど侵襲性が無視できなくなる経験からも、光シート顕微鏡はサイズの小さい試料のイメージングに関しては非常に魅力的な手法に思えました。今後普及していく可能性や制約について、詳しい先生方のご意見をいただけると幸いです。
   
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1 愛媛大学医学部附属病院 先端医療創生センター/大学院医学系研  今村健志 研究室  大嶋佑介 光シート顕微鏡について 2012/08/13
愛媛大の大嶋です.昨年の10月まで基生研イメージングサイエンス領域時空間制御研究室(野中茂紀准教授のラボ)にて,新規光シート顕微鏡の開発に携わっておりました.
 ご存知かもしれませんが,基生研は日本で唯一DSLMを所有しており,共同利用機器として公開・運用されています.中嶋先生のコメントにありますように,光シート顕微鏡の特徴は光毒性や褪色を抑えた深部イメージングが可能であることです.その理由は,励起レーザーを低倍の対物レンズなどを用いて比較的低いNAで試料に照射することで,焦点近傍に形成されるビームウェストの部分で励起を行うので,光子エネルギーが一点に集中することを避けられるためで,メダカやゼブラフィッシュ胚のタイムラプスイメージングや3Dイメージングに威力を発揮しています.また,充分に明るい試料の場合,CMOSセンサーなど高速イメージングデバイスを用いることで,ビデオレートでのイメージングも可能です.
 その一方で,励起用の対物レンズと観察用の対物レンズを互いに垂直に配置しなければならないため,いくつかの点において応用範囲に制限がかかってしまいます.小さな試料(〜1mm程度)に対しては,光シートで視野全体を照射し,かつ試料を動かしながら画像取得することが可能ですが,大きな試料になると,試料の保持,光シートの調整,視野の確保が困難になります.また,画像の分解能についてはXY方向は,観察側の対物レンズの性能(NA)とCCDカメラの画素数に依存し,Z方向の分解能については,光シートの厚さ,すなわち照射側の対物レンズの性能(NA)に依存します.しかし,高NAのレンズは,一般的に作動距離が短いため,対物レンズを互いに垂直に配置することは事実上不可能になります.
 上記のような特徴を持つ光シート顕微鏡ですが,その将来性に注目して,これまでに2光子励起やラマン散乱光を利用した光シート顕微鏡を製作し,高性能化と応用範囲の拡大を目指した研究を行ってきました.具体的にこんな試料のこんな現象が見たい,というコメントをいただけたらお互いに建設的な議論ができると思いますので,ご興味のある方どうぞよろしくお願いいたします.
      
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2 京都大学 医学研究科病態生物医学  松田研究室  中正英二 視野中心と視野周辺でのZ分解能の違いは? 2012/08/14
具体的にこんな試料のこんな現象が見たい、という質問ではなく光学的な質問で恐縮なのですが。
大嶋先生が書いておられるように、Z方向の分解能は照射側の対物レンズの性能によります。ここで疑問がありますが、検出側の対物レンズ視野中心のZ分解能と視野周辺のZ分解能の違いがかなり大きいと思いますが、最終的に得られる画像にどれほど影響するものなのでしょうか?
それとも極微小領域のみをの画像データをとって、資料を動かすことによってそれら画像をつなぎ合わせているのでしょうか?



      
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3 愛媛大学医学部附属病院 先端医療創生センター/大学院医学系研  今村健志 研究室  大嶋佑介 Z方向の分解能とビーム形状について 2012/08/14
ご指摘の通り,ビームウェストを利用している以上,光シートの厚さは視野中心から遠ざかるにつれて厚くなってしまいます.実際には,集光したビームのレイリー長の範囲内(ビームウェスト半径が√2倍になる範囲)で観察を行うように設計していますので,視野内において,Z方向の分解能が著しく変わることはありません.レイリー長は,焦点深度と同様の概念で,その範囲内であれば,ビーム形状および強度分布はほぼ均一である仮定します.例えば,x5の対物レンズを用いてNA0.03程度で励起光を照射すると幅100〜200μm程度の視野が一度に観察可能です.また,対物瞳に入射するビーム径を調整することで,レイリー長をある程度調節することができます.しかし,さらに広い視野をより高分解能で計測しようとすると,中正先生がご指摘の通り試料を動かして撮影して貼り合わせるタイリングなどの画像処理が必要となりますが,高速化などのメリットが失われてしまうので,広視野観察を可能にするビーム整形の工夫が今後の応用範囲拡大に向けた課題のひとつであるといえます.
      
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4 京都大学 医学研究科病態生物医学  松田研究室  中正英二 Z分解能 2012/08/15
大島先生
ご回答ありがとうございます。
NA0.03程度で励起光を照射するとなると、シートの厚みはだいたい視野中心で10um、レイリー長付近(視野周辺)で14-15umくらいになりますよね。
これくらいの分解能でもデータがとれるような実験であれば、高速で試料へのダメージも少なくなるメリットが大きい、ということですね。
Bessel Beam などでも試してらっしゃったりするのでしょうか?
      
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5 京都大学 医学研究科病態生物医学  松田研究室  中正英二 Z分解能 2012/08/15
大島先生
ご回答ありがとうございます。
NA0.03程度で励起光を照射するとなると、シートの厚みはだいたい視野中心で10um、レイリー長付近(視野周辺)で14-15umくらいになりますよね。
これくらいの分解能でもデータがとれるような実験であれば、高速で試料へのダメージも少なくなるメリットが大きい、ということですね。
Bessel Beam などでも試してらっしゃったりするのでしょうか?
      
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6 京都大学 医学研究科病態生物医学  松田研究室  中正英二 大変失礼しました 2012/08/15
申し訳ありません、同じコメントを二重に投稿してしまいました。
あと、先生のお名前も間違えて記載してます。大嶋先生でしたね。
重ね重ね申し訳ありませんでした。
      
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7 国立循環器病研究センター研究所 細胞生物学部   望月研  中嶋洋行 解説ありがとうございます 2012/08/17
大嶋先生
先月のイメージング講習会では大変お世話になりました。
光シート顕微鏡について、詳しい解説をいただきありがとうございました。小型魚類や昆虫などの小さな生体試料のライブイメージングに関しては非常に有効な方法だと思いましたので、今後更bに開発が進み一般に拡がるようになるのを期待しております。低NAレンズを使用する制約下でz分解能としてはどの辺りまで出せるものなのでしょうか?教えていただけると幸いです。勿論試料にもよるとは思いますが。
      
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8 愛媛大学医学部 先端医療創生センター/分子病態医学  今村健志  大嶋佑介 bessel beamの応用と軸方向の分解能について 2012/08/24
中正先生,中嶋先生
お返事が遅くなってすみません.
いわゆる構造化照明としてBessel Beamを用いた報告がすでにあります.(T. A. Planchon, L. Gao, D. E. Milkie, M. W. Davidson, J. A. Galbraith, C. G. Galbraith, and E. Betzig, "Rapid three-dimensional isotropic imaging of living cells using Bessel beam plane illumination," Nat Methods 8, 417-423 (2011).ベッセルビームの応用に関して,中嶋先生からのご質問にも答える形で解説いたしますと,より高分解能を実現するため,すなわち励起のレーザーシートの厚さをより薄くするために,ベッセルビームを利用することによって,従来のガウシアンビームよりもビームウェスト径を小さく,レイリー長がより長いビームを得ることができます.その他のアプローチとしては,2光子励起を利用することで,実際に蛍光が発生する空間的な領域を小さくすることができます.これらの手法を用いたときの実際のz方向(観察側に対して軸方向)の分解能のめやすとしては,上記の文献を引用いたしますと,光シート厚さでその半値全幅が0.5μm程度まで小さくできるようです.
      
   本文引用


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