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PubMedID 23239625 Journal Science, 2013 Jan 25;339(6118);452-6,
Title Actin, spectrin, and associated proteins form a periodic cytoskeletal structure in axons.
Author Xu K, Zhong G, Zhuang X
早稲田大学理工学術院 生命医科学専攻  井上貴文研究室    中村 秀樹     2013/03/18

STORMで見る神経軸索の細胞骨格構造
 今年のあたまにScienceに載った論文です。筆者(STORMの開発者?でもあるHarvardのXiaowei Zhuangのグループです)らは、Alexa647(とときにはCy3Bも同時に使っています)をreporter dyeとして用いたSTORMによって、ラット海馬の培養神経系およびスライス中で神経細胞軸索の細胞骨格のorganizationを調べています。筆者らの結果によれば、神経細胞の突起の中でも軸索は樹状突起とは異なるactin細胞骨格の構造をしており、actinは軸索の周方向を囲むリングを形成しています。また、このactinリングは非常に規則的に180-190 nmの間隔で並んでおり、このリングの間にはspectrinの(おそらく)tetramerが分布しています。190 nm程度というリング構造の間隔は、ちょうどspectrim tetramerのサイズと合致するのだそうです。また、actinのcapping proteinであるadducinがactinと共局在することから、actinのリングは短いactinの鎖が集まってできていることが示唆されます。筆者らはさらに、ankyrinを介してspectrinと結合し得るナトリウムチャネルNavの分布をSTORMで測定しており、軸索のinitial segment(根元の部分。action potentialを発生させる部分とおおまかに一致する)において、Navがspectrin tetramerとおおむね共局在することを示しています。このことによって、ここで発見された周期的な細胞骨格構造が、神経の活動電位発生という生理的に重要な機構に深く関わっている可能性が示されたわけです。
 技術的には、astigmatismを用いて光軸方向の情報も同時にとれるSTORMを用いており、さらにふたつの分子を可視化する実験では2種類のreporter dye(Alexa647とCy3B)、もしくは2種類のactivator dye(Alexa405とCy3, reporter dye はAlexa647)を用いるなど、さまざまな工夫をしたシステムが用いられています。1枚の画像をとるのにだいたい1000秒のオーダーで時間がかかっているようです。この時間がdyeの工夫などによってもう少し短縮され、分子ラベリングを工夫すれば十分に生細胞に応用される可能性があると思います。STEDも生細胞との相性はよくなりつつあるようですが、比較するとどちらが生細胞、あるいはin vivoに用いやすいのでしょう?
 個人的な感想ですが、このような100 nmから数-数十 μmのオーダーにまたがる構造に関しては、従来の電子顕微鏡を用いた方法では見過ごされる可能性は高いのかな、と感じました。すでに答えが出ているものを確認することは電顕でもできるのでしょうが、やはり固定したサンプルに限られたとしても電子顕微鏡を補完する手法としてSTORM,PALMを含むsuper-resolution microscopyの威力は大きいのだと思います。また、一分子追跡実験系(SPT)を本研究で分布が測定されたナトリウムチャネルNavに応用した場合、今回見られた(おおむね)周期的な分布がどれほど静的なものなのだろうか、という点にも興味もわきました。このような細胞骨格が京大楠見研の主張するようなpicket-fenceのような拡散障壁を作っていれば、Navチャネルの軸索に沿った方向への拡散と、周方向への拡散に非等方性が生まれるのではないかと思います。また、もしNavとspectrinの間のanchoringが動的なものであるとすれば、Navの拡散はanomalous diffusionになるものと推測されます。今回用いられたようなsuper-resolution microscopyとSPTの同時(並行?)計測は原理的に可能なので、今後このような視点で研究が行われることもあるのではないでしょうか。
 以上、長々と失礼しました。
   
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