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PubMedID 24140422 Journal Mol Cell, 2013 Oct 16; [Epub ahead of print]
Title Stochastic ERK Activation Induced by Noise and Cell-to-Cell Propagation Regulates Cell Density-Dependent Proliferation.
Author
京都大学・生命科学研究科  生体制御学    松田道行     2013/10/26

ERKの自律的発火
時空間情報イメージング研究拠点の青木准教授の論文が発表されました。
これまで細胞内情報伝達研究は生化学的手法で進んできました(10^5細胞の平均をとるということですね)。一つ一つの細胞での活性変化を見たいという思いでFRETバイオセンサーを開発してきたのですが、安定発現できないという問題があり、細胞間の違いを十分には比較できていませんでした。2年前にトランスポゾンを使ってFRETバイオセンサーを安定発現する方法が開発され、それによって一つ一つの細胞で情報伝達分子の活性変化を1週間程度は観察することが可能となりました本論文はその成果の一つです。以下は要約です。
1.ERK活性は約20分の持続時間を持つ自律的発火を示す。
2.この自律発火はおそらくRaf活性の揺らぎにより発生する。
3.ノイズのレベルは細胞密度に依存している。
4.ERK活性は側方に伝搬する。
5.側方伝搬はERKにより細胞表面のEGFが活性化されることによる。
6.ERKの自律的発火はEgr1を介して細胞増殖を促進する。
FRETバイオセンサーの安定発現系により、今後、細胞間コミュニケーションの研究が進むことを期待しています。

P.S. 本フォーラムは自薦も歓迎しています(管理人)。
   
   本文引用

1 理研・脳センター  宮脇研  阪上ー沢野 朝子 Re:Re:Re:Re:Re:ERKの自律的発火 2013/11/04
松田先生
青木先生

 論文おめでとうございます。
膨大なイメージングデータ、解析のもと作成された論文を読み解くのに時間がかかり、いまだ未完ではありますが、いくつか質問させていただきたいと思います。

>3.ノイズのレベルは細胞密度に依存している。

NRK-52E cells では"Frequency of ERK pulse" はベル型反応を示しており、これまでの自分の経験に解を与えていただいたようで、納得!です。
そこで、NIH3T3,COSやHeLaなどではどうなのでしょうか? もしくは、島になって増殖する細胞(contact dependent のような増殖形態をとる細胞)と、HeLaのようにばらばらに増殖して、contact inhibition もかからないような細胞では?HeLaなどはベル型にならないのでは?と予想しました。


先生に挙げていただいた要約点以外にも興味深い点があります。

・高い感受性を達成しているEKAREVのおかげで、basal level のERK活性化さえも定量できるようになった点。10%血清下においてcontact inhibitionを誘導した場合にERKのbasal levelがこんなにも低下するのですね。私の考えが短絡的ではいけませんが、生体において複雑な組織構造を構成している細胞の多くはこのような状態に近いと考えてもよいでしょうか。

・stochastic ERK activation をすでに生体マウスにおいても観察されています。 これは細胞密度でいえば、高密度の類になるという理解でよろしいでしょうか? Fig1E のデータは、mammary gland だから多くの細胞でのERK発火が見えているのでしょうか? それとも他の組織でも同様の頻度で観えるのでしょうか? もしくは、組織幹細胞を検出することが可能なのでしょうか?

高感度FRET indicatorならではの結果に感嘆しています。
今後も、細胞密度を感受するシステムの解明などますます期待しています。
      
   本文引用
2 京都大学・医学研究科  時空間情報イメージング拠点  青木 一洋 Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:ERKの自律的発火 2013/11/04
沢野さん

コメントありがとうございます。

>膨大なイメージングデータ、解析のもと作成された論文を読み解くのに時間がかかり、

反省します・・・。もう少しコンパクトにまとめられるはずなのですが、私の力不足です(詳しくはhttp://www.lif.kyoto-u.ac.jp/imaging/forum/thread.php?id=61参照)。それでも無事論文が通ってほっとしてます。

>そこで、NIH3T3,COSやHeLaなどではどうなのでしょうか? もしくは、島になって増殖する細胞(contact dependent のような増殖形態をとる細胞)と、HeLaのようにばらばらに増殖して、contact inhibition もかからないような細胞では?HeLaなどはベル型にならないのでは?と予想しました

COS7細胞やHeLa細胞はERK活性が確率的に活性化する細胞の部類に属します(Supplementary Figure S1D)。NIH-3T3細胞は試したことがないですが、Mouse embryonic fibroblastも確率的なERK活性の発火が見えます。

島になって増える細胞ですが、NRK-52E細胞が島になって増える上皮系の細胞です。NRK-52E細胞だけでなくHeLa細胞やCOS7 細胞も、ある程度以上の密度のときにERKが効率よく発火しているように見えます。

Contact inhibitionが起きない細胞でベル型にならないか、ということは実は試していません(この前の生物物理学会でも同じことを指摘されました・・・)。あくまで個人的な感覚で申し訳ないですが、(1)contact inhibitionがかからないと言われるHeLa細胞などでも、細胞密度が中くらいのときと高いときとでは後者の方が細胞増殖速度が遅そう(定量してませんが普段の継代の感触から)ということ、(2)HeLa細胞でも細胞密度が高くなるとbasalのERKの活性がある程度は下がること(FRETで確認済み)、(3)basalのERKの活性がERK活性の発火のしやすさ(excitability)に関わるという数理モデルの予測があること、という3点を考えると、ERK活性の周波数はベル型のような形を取るが、NRKの結果ほどは周波数は落ち込まないのかなーと妄想しています。また試してみます。

>高い感受性を達成しているEKAREVのおかげで、basal level のERK活性化さえも定量できるようになった点。10%血清下においてcontact inhibitionを誘導した場合にERKのbasal levelがこんなにも低下するのですね。私の考えが短絡的ではいけませんが、生体において複雑な組織構造を構成している細胞の多くはこのような状態に近いと考えてもよいでしょうか。

NRK-52E細胞に関しては、論文には出していませんが、確かに細胞密度を上げるとbasalのERKのリン酸化量が下がってほぼ検出不可能になります。生体内の話ですが、私も同じように推測していますが、検証はしていません。

>stochastic ERK activation をすでに生体マウスにおいても観察されています。 これは細胞密度でいえば、高密度の類になるという理解でよろしいでしょうか? Fig1E のデータは、mammary gland だから多くの細胞でのERK発火が見えているのでしょうか? それとも他の組織でも同様の頻度で観えるのでしょうか? もしくは、組織幹細胞を検出することが可能なのでしょうか?

これに関しても、同じようなことを私も考えておりますが、現時点で良い回答を持ち合わせておりません。Mammary glandでは、Adultの雌マウスでもまだ細胞が増えているようですので、もしかしたら培養細胞で見られたような確率的なERK活性の発火現象を使って細胞増殖を促進しているのかもしれません。

参考になれば幸いです。

青木
      
   本文引用
3 理研・脳センター  細胞機能探索・宮脇敦史研究室  阪上ー沢野朝子 Re:ERKの自律的発火 2013/11/06
青木さま

 解釈ありがとうございます。興味深い知見が沢山あります。
今後の自分の研究へのひとつの方向性を得たように思います。

ちなみに、大量のイメージングデータの解析は、どのようにされているのでしょう?フォーラムの何れかで解説されていましたら、サイトをご教示ください。手作業によるものなのか、それともシステム化されているのか? この点にも興味あります。
自分の手元に大量のデータがたまってます。。
      
   本文引用
4 京都大学・医学研究科  時空間情報イメージング拠点  青木 一洋 Re:Re:ERKの自律的発火 2013/11/06
沢野さん

コメントありがとうございます。

データ解析ですが、当初は自分で一個ずつ細胞とトラッキングするようなプログラムをMetaMorphで作成して解析していましたが、多細胞のトラッキングとなると時間がかかってました。

そこで、MetaMorphの追加のアプリケーションでMotion Analysisというのを使って多細胞を一気にトラッキングして座標データ、蛍光強度をエクスポートし、それをMATLABというソフトでデータ整形、時系列解析という流れで解析しました。Motion Analysisはなかなか優秀です。

Matlabでのデータ解析では、まず長時間トラッキングできた細胞データをピックアップし、その細胞のFRET/CFP比の時系列データを取ってきます。データのをSavitzky-Golay filterでスムージングし(付属の関数がある)、パルス判別をします。付属の関数でピーク判別もできる(findpeaksという関数)のですが、目で見てみるとうまくピークが取れていないことがありました(basalが変動している細胞とか)。そこで、時系列データを特定の時間窓で切って1/2正弦波でフィッティングし、相関関数と振幅の値からパルス判別をする、というプログラムを自作し解析しました。これでパルス幅と振幅が求められます。伝搬したかどうかの判別に関しては、細胞間の距離が十分近いこと、かつ隣の細胞でERKが活性化してから数分以内に活性化がおきたこと、という条件に当てはまるパルスをピックアップして定量しました。

この辺の時系列解析に関しては、プロの人がやればもっとエレガントにできると思いますが、結構泥臭くなってしまいました。画像解析という点では、画像データから数値データに出力するところが大変だと思いますが、今回は細胞の核のデータであったので、MetaMorphのMotion Analysisで簡単に解析できました。数値データに出力してしまえば、あとはMatlabでプログラムを書いてゆっくり解析できるのでハードルは下がります。Matlabは慣れてしまえば超便利です。

参考になれば幸いです。
      
   本文引用
5 理研・脳センター  細胞機能探索・宮脇敦史研究室  阪上ー沢野朝子 Re:Re:Re:ERKの自律的発火 2013/11/08
青木さま

解析手法に関する貴重な情報、ありがとうございます。
さっそく、Motion Analysisを試してみたいと思います。
今後さらに、データが大量化していく時代です。解析に関しても、様々なノウハウをご教示いただければ幸いです。

沢野
      
   本文引用


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