ご存知の方もいらっしゃると思いますが、知らない方には役に立つかと思い投稿しています。
Cre-inducibleのRFPマウスとしては、tandem-dimer2 (tdRFP)を使った下記の論文のものが、免疫系ではよく使われています。
Luche et al. Eur J Immunol. 2007 Jan;37(1):43-53.
しかしながら、これは一般的な二光子顕微鏡ではまだかなり暗いです。Maitai-HPで1000nmあたりで励起したのでは、なんとか見える程度。Cameleon Ultra2でならもう少し明るいですが、昨年の班シンポジウムで少し触れましたように、深部で十分な明るさを得るにはOPOを使う必要がありました。
それに対して、tdTomatoを使った下記のものは、発現量がかなり高くOPOを使わなくても、結構な深さまでまで見えます。これはtdRFPとtdTomatoの違いというより、発現量の違いと思います。どちらもRosa26を用いていますが、tdTomatoのほうは、CAGプロモータやウイルス由来RNA安定化因子が挿入されています。
Madisen et al. Nat Neurosci. 2010 Jan;13(1):133-40.
このマウス、Jacksonから購入可能です。
http://jaxmice.jax.org/strain/007914.html
tdRFPのほうと比較してどれぐらい明るいかというと、FACSCantoIIで測ったところでは、5〜6倍の明るさでした。
また両方のマウスをCAG-Creと交配して、全身で発現させたところ、tdRFPの方は一見普通のマウスに見えますが・・・、tdTomatoの方は皮膚の色自体が赤くなりました。耳、手足など毛に隠れてないところを見れば、それだけでスクリーニングできます。ランプも部屋を暗くする必要も何もありません。ホモなどは炎症を起こしてるのかと、一瞬心配になるほど赤いです。(FACSデータやマウスの写真など、貼りたかったのですが、VICにはまだその機能はないそうです。)
このtdTomatoの細胞を、当研究室ではGFP、YFPと同時にイメージングしています。そのための励起波長は今のところ1014nm近辺がいいようです。emission filter setについては、最近publishした総説に書いたGFP、YFP、CMTMR用のものを使っています。Kitano and Okada. Methods Enzymol. 2012;506:437-54.
このマウスが明るいとの情報は、UCSFのDr. Christopher Allenから頂いたもので、上記の励起波長等のイメージング条件は、先月まで当研究室におりました北野正寛君(現Caltech研究員)が決めてくれたものであることを、申し添えておきます。
神経系の先生方をはじめ、すでにこのマウスをお使いになられている先生方には、無駄な情報で申し訳ありませんでした。時間的余裕ができましたら、次回は、adoptive transfer後のイメージングに耐える、細胞ラベル用のfar-red dyeの比較について書きたいと思います。
1 | ---- ---- 大嶋佑介 | 二光子用の蛍光プローブ評価 | 2012/04/09 |
岡田先生,大変有用な情報を発信していただき,ありがとうございます.
赤色系の蛍光蛋白質で明るいTgマウス系統については,二光子励起による同時多色イメージングや光毒性による影響が懸念される実験系において分野問わず,ますます需要が高まると思います. 私たちの研究室でも,組織深部のイメージングに利用すべく,すぐに導入して実験条件の検討を行いたいと考えております.tdTomatoですと,従来の二光子用のTi:Sapphireレーザー光源でも発振可能な1000nm付近の波長でも観察可能ですが,Coherent社のCameleon-OPOシステムや,SP社のInSight DeepSeeなど,次世代の長波長光源がすでに登場してますので,さらに長波長励起のプローブについても今後注目して,利用できそうなものについては,比較評価や応用例についての情報を共有できたらと思います. |
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2 | ---- ---- 日比輝正 | 深部観察 | 2012/04/10 |
岡田先生
情報ありがとうございます。大変参考になりました。 >tdTomatoを使った下記のものは、発現量がかなり高くOPOを使わなくても、結構な深さまでまで見えます。 >このtdTomatoの細胞を、当研究室ではGFP、YFPと同時にイメージングしています。そのための励起波長は今のところ1014nm近辺がいいようです。 の点について、もう少し教えて頂けますでしょうか。 2色以上の同時深部イメージングができる状況だと、蛍光タンパク自体の明るさ(EC×QY値)、蛍光波長、吸収スペクトルと励起波長とのマッチング、発現量、励起光のパワー等々、様々なパラメータに関して、深部観察にどれがどの位寄与するかがよりはっきり分かると思いますが、やはり蛍光タンパク自体の明るさが非常に重要ということになりますでしょうか。逆に、明るすぎて困ると感じることはありますか? また、1014nm近辺がいいというのは、双方をちょうど同じくらいの明るさ(深度?)で観察するのに適しているという理解で良いでしょうか。tdTomato単独+OPO最適波長ならば、やはり相当な深さまで見えるようになりますか? 質問ばかりですみません。教えて頂ける範囲で結構ですので、どうぞ宜しくお願いします。 |
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3 | ---- ---- 岡田 峰陽 | 2012/04/10 | |
大嶋先生、コメント有り難うございます。より良い励起条件が見つかりましたら、ご教授頂ければ幸いです。 | |||
4 | ---- ---- 岡田 峰陽 | 2012/04/10 | |
日比先生
わたしたちの使っているubi-GFP-Tg、Venus knock-in(未発表共同研究)、tdTomato(系統名Ai14)は、すべてバランスよく明るいため、明るすぎて困ることはありません。様々な条件検討を行ったわけではないので、満足な答えは持ち合わせておりませんが、おそらく比較的暗くて、スペクトルの重なるものと組み合わせて使うときには明るすぎて困ることもあるかと思います。 1014nmはご指摘のとおり、あくまでも私たちの顕微鏡で、私たちの使っている系統の発現量のGFP, Venus, tdTomatoの3つを同時励起するための最適波長です。この波長域で可能なレーザー出力や、3つの蛍光タンパク質の発現量のバランスによって前後するだろうとおもいます。 tdTomato単独ならOPOを使ったほうが、おそらくさらに深くまでみえるとおもいますが、今のところ多色性重視にならざるを得ない実験が多く、まだ行っていません。そのうち行ったらまたレポートしたいと思います。 |
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5 | ---- ---- 岡田 峰陽 | 訂正、980nmでした | 2012/04/11 |
申し訳ありません、大訂正があります。
1014nmは、あるFar-red dyeと別の蛍光タンパク質を同時にみるときに使っている波長でした(これについてはまた後日)。 GFP, Venus, tdTomatoの組み合わせは、980nmでやっています。1014ではGFPはちょっとつらいですよね。混乱させて申し訳ありませんでした。 |
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