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PubMedID 23751497 Journal J Cell Biol, 2013 Jun 10;201(6);903-13,
Title The netrin receptor DCC focuses invadopodia-driven basement membrane transmigration in vivo.
Author Hagedorn EJ, Ziel JW, ..., Johnson SA, Sherwood DR
国立遺伝研 構造遺伝学研究センター  多細胞構築    伊原伸治     2013/11/26

細胞浸潤の可視化
 前々回に白壁先生が、癌細胞が作り出すinvadopodiaのイメージングに関する論文を紹介されましたが、今回紹介する論文も生体内でのinvadopodiaの形成とその特性を可視化技術と巧みなライブイメージングによって解析したものです。白壁さんが紹介した論文と対比させる形で読まれると面白いと思い、紹介させていただきました。

特筆すべき事は次の三点だと思います。
1.in vivo条件下でinvadopodia形成を初めて報告した事
2.ネトリンシグナルが、浸潤初期時に観察される多数のinvadopodiaから、一つのinvadopodiaを選択するために必要な事
3.選択されたinvadopodiaが作る基底膜上の穴の形成過程を観察して、穴の拡大が分解よりも基底膜の物理的置換によってなされる事

 論文で取り扱うのは、線虫のアンカー細胞とよばれる細胞の基底膜を介する細胞浸潤の過程を観察したものです。アンカー細胞の細胞膜をmCherryで可視化して、基底膜はラミニンGFPで可視化しています。観察はCSU-10とEM-CCDを用いて行い、3D及びムービーはiMaris7.4を用いて作成しています。Videoが1−9までありますが、video4〜6などは、タンパク質がinvadopoiaに集積する過程と基底膜の穴が広がる過程をライブで観察しており、細胞浸潤に興味のある方には見応えがあるのではないか、と思います。

 上手い方法だなと思ったのは、rol変異体(体がねじれる変異体)を用いて浸潤面をXY軸で観察した点です。線虫はスライド上で必ず横向きになるので、rol変異体を使わないと、通常は浸潤面がXZ軸となり、浸潤面を観察するにはZ軸方向にセクショニングする必要があります。白壁さんの紹介した論文にも記載されていますが、invadopodia形成時のタンパク質動態は秒単位なので、Z軸方向へのセクショニングは時間的にも無理ですが、浸潤面をXY軸にすることによって、線虫体内で観察される浸潤面のinvadopodia形成を秒単位スケールで観察しています。この論文で報告されたinvadopodiaの形成をもう少し詳しく述べると下記のようになります。

 浸潤を開始(基底膜の破れ)するまでは、アンカー細胞(浸潤細胞)のbasal側に、Fアクチンが集積するinvadopodia様構造が無数に形成されます。この構造は、1分あたり2.8個形成され、そのライフタイムは浸潤3時間前だと45秒程度で、浸潤前だと73秒程度になります。
面白いことに、無数に作られたinvadopodiaの中で、基底膜を破るものが現れると、そのinvadopodiaが安定化して、形成した穴を拡大していきます。もし2つのinvadopodiaが基底膜に穴を作ったとしても、一つに統合される様子をライブイメージングで観察しており、説得力があるなあ、と思わせます。ネトリンシグナルが、数百も形成されるinvadopodiaの中から一つを選択するために必要である事、そして選択されたinvadopodiaが穴を拡大するためにも必要であることを報告しています。

 また基底膜をDendra2で可視化することで、浸潤時に観察される穴の拡大には、基底膜の分解より物理的置換が重要であることを報告しています。これは癌細胞と異なり、生理的に制御された細胞浸潤では、基底膜の分解は殆ど必要ないことを示唆しているかな、と思います。

 個人的に興味があったのは、数百もつくられるinvadopodiaから一つが選ばれる条件はなんだろう、ということです。つまり、ネトリンシグナルが一つを選択するために必要であることを報告していますが、何が基準にして選ぶのか?ということです。By chanceなのか、浸潤前に基底膜のメッシュ様の構造になにかしらの隙間ができて、そこにたまたま巡りあったinvadopodiaがネトリンによって安定化するのか、色々な可能性があると思いましたが、基底膜のメッシュ様構造は約150nm程度の間隙なので、共焦点顕微鏡顕微鏡では見つからないだろうな、超解像顕微鏡で観察したら、なにか面白いものでも見えるかな、と考えこんでしまいました。













   
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1 京都大学生命科学研究科    松田道行 Re:細胞浸潤の可視化 2013/12/01
詳細な解説ありがとうございます。読まなくてもいいくらいでした。。ショウジョウバエはよく聞きますけど、線虫でも癌の浸潤をmimicする研究があるとは知りませんでしたこうなるとマウスを使った研究はよほどメリットを考えないと勝負にならないですね。15秒おきの撮影でもCSUのほうがいいんでしょうかね。マルチカラーをどうやったかとか技術的なことが読み取れなかったのがちょっと残念でした。昔のCSUは色収差があって3DのFRETにはてこずったので、マルチカラーが簡単にできるならspinning confocalとの優劣を少し勉強しようと思いました。
      
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2 国立遺伝研 構造遺伝学研究センター  多細胞構築  伊原伸治 Re:Re:細胞浸潤の可視化 2013/12/02
松田先生
 コメントして頂きまして、ありがとうございます。
 線虫のアンカー細胞は、EGFやNotchを用いることにより細胞の運命を決定する事で有名なのですが、基底膜を介した細胞浸潤を実行することが報告されて、ライブイメージングができる浸潤モデルとして使われています。Sherwood DR, and Sternberg PW. Dev Cell. 2003 PMID:12852849, Sherwood DR, B et al. Cell. 2005 PMID:15960981)。
 私はとっても良いモデルと思っていますが、哺乳類細胞の浸潤やガン細胞の浸潤を本当にmimicできているのか?という疑問は常にあります。例えば、白壁さんの論文に記載されているinvadopodiaの形成に必要なcortactinは、線虫にはありません。おそらく、線虫アンカー細胞のinvadopodia形成は、癌細胞とは少し異なるメカニズムなのかもしれません。
(アンカー細胞の浸潤の研究を学会で発表すると、本当にガン細胞と同じメカニズムですか?としょっちゅう聞かれます。)

>マルチカラーをどうやったかとか技術的なことが
多色の蛍光を撮影するときは(この論文では赤と緑だけですが)、Sherwood研のCSUにはカメラが一台しかないので、GFPとmCherryを交互に切り替えて撮影しています。

>15秒おきの撮影でもCSUのほうがいいんでしょうかね。
Single planeで15秒おきなら、CSUでなく、スキャニング型共焦点でも撮影できると思います。しかしVideo1などは、15秒毎にZ軸方向に8sectionを撮影しているので、CSUのほうがいいのかな、と思います。最近のレゾナントを積んでいるスキャニング型共焦点なら、十分撮影出来ると思います。
それと、CSUで撮影したもう一つの理由というのは、Sherwood研にはCSUしかないのです。

>昔のCSUは色収差
松田先生が作成された PHOGEMON PROJECT 公式マニュアルを読みますと、「横河電機の共焦点スキャナー装置をつかうとCFPとYFPとで明らかにずれる」と書いてあるので、CSUには色収差があると思うのですが、Sherwood研では、レンズはZeissのPlan-APOCHROMAT 100×/1.4 oilを使っており、ZeissのPlan-APOCHROMATレンズだと、緑色と赤色の蛍光タンパクなら色収差は殆どない、と彼から聞いたことがあるのですが、どうなのでしょうか?

これはZeissのレンズがいいのでしょうか?
それとも波長の違い(GFPとmCherryの組み合わせとYFPとCFPの組み合わせ)なのでしょうか?

色収差に詳しい方がおられたら、コメント頂けたら幸いです。
      
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3 京都大学生命科学研究科    松田道行 Re:Re:Re:細胞浸潤の可視化 2013/12/03
伊原さん

線虫を使ったinvasion研究については、昨日着いた「生化学」の総説にも書いてくださってましたね。 勉強しました。

> >昔のCSUは色収差があった件
もう10年前のことなので、今のはそんなことはないのだろうと思います。当時はmicrolensを疑ったのですが、構造を考えればmicrolensが原因とは考えにくいという結論でした。Gオングストローム社がこの色収差を直す装置を販売してました(今もしてると思います)。FRETでRatioを取らない分には気にするほどのものではなかったはずです。
      
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