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PubMedID 24212374 Journal Cell Struct Funct, 2013 Nov 9; [Epub ahead of print]
Title Development of a FRET biosensor with high specificity for Akt.
Author Miura H, Matsuda M, Aoki K
京都大学大学院医学研究科  時空間情報イメージング拠点    青木 一洋     2013/12/03

Akt活性を特異的に検出する基質型FRETバイオセンサー
タイトルの通り、Akt活性を特異的に検出する基質型FRETバイオセンサーを開発し、Cell Structure and Function誌にて報告しましたので、宣伝させてください。

背景:
Aktは細胞死や癌化に関連するセリンスレオニンキナーゼです。そのなかでもAGCキナーゼタイプに属し、polybasicなアミノ酸配列近傍にあるセリン/スレオニンをリン酸化します。AktのFRETバイオセンサーは我々を含めいくつかのラボから報告されてきました。しかし、実際に使ってみると、十分満足のいくバイオセンサーが有りませんでした。一番腑に落ちなかったのは、westernだとEGF刺激でAktのリン酸化(すなわち活性化)が数分でおき、すぐに不活性化されるのに対し、これまでのFRETバイオセンサーはこのような速いAkt活性の時間変化を全くとらえていなかった(だらだらFRET効率が上昇する)という点です。これは、報告されていたFRETバイオセンサーの多くが基質型(内在性のAktによってリン酸化され、構造変化がおこりFRETが引き起こされる)を採用しており、おそらくAkt以外の他のリン酸化酵素がFRETバイオセンサーをリン酸化しているということを暗に示唆していました。

結果:
Akt活性を特異的に認識する基質型FRETバイオセンサーを開発する事にしました。方法は、我々が以前報告したEeveeタイプのバックボーンにAktによってリン酸化されるペプチド配列を挿入するというシンプルな方法です。実際には5-6種類試しました。その中でGSK-3betaのリン酸化配列がAkt活性の時間変化を最も忠実に検出することが分かりました。このバイオセンサーをEevee-iAktと名付けました(iはimproved)。Eevee-iAktはEGF刺激をしたときに、数分でFRETの上昇(10%くらい)が起き、その後、すぐにFRETの減少が観察されます。EGF刺激依存的なFRETの上昇はPI3K阻害薬やmTORC1/2阻害薬Torinで完全に消失します。衝撃的なことに、これまで報告されてきた基質型FRETバイオセンサー(Eevee-Akt, BKAR, Aktus)はいずれもEGF刺激によるFRETの変化がPI3K阻害薬でまったく阻害されませんでした。最後に、Eevee-iAktを細胞質や形質膜、ミトコンドリア、核などに局在化させ、EGF刺激によってAkt活性が細胞内のどこまで到達するかを調べました。HeLa細胞では形質膜、細胞質、ミトコンドリアまでAkt活性が伝搬していたのに対し、Cos7細胞では形質膜ではAkt活性が観察されましたが、細胞質やミトコンドリアではほとんどAkt活性が観察されませんでした。

議論:
?特異性について:EGF刺激はAkt以外にも様々なリン酸化酵素を活性化することが知られており、既報のバイオセンサーは他のリン酸化酵素によってリン酸化されていると思われます。事実、AGCキナーゼ(PKAやPKCを含む)はいづれもpolybasicなアミノ酸近傍のセリン/スレオニンをリン酸化することが知られており、基質配列だけで特異性を出すのは難しいという事は容易に考えられます。なぜ今回のGSK-3betaの配列が基質特異性が高かったのかについては謎のままです。このあたり、バイオインフォマティクス的に特異的なリン酸化ペプチド配列を取って来れると良いのですが・・・
?バイオセンサーのcharacterizeについて:2011年に我々がEeveeバックボーンを報告した際、AktバイオセンサーとしてEevee-Aktを出していましたが、どうもこれもAktに対して特異性は低いということが分かりました。早とちりしてすみません。バイオセンサーをcharacterizeする際は注意しないといけないということが身にしみて分かりました。調べてみると、既報のバイオセンサーはいずれもPI3K経路をよく活性化するPDGF刺激を使っており、これがcharacterizeの時に悪手だったのかもしれません。今回は、EGF刺激以外にもPI3K経路のみを活性化させるシステムを使って特異性を確認しており(PMID: 17095657)、特異性については自信を持っています。
?Aktの細胞内活性化パターンについて:HeLa細胞とCos7細胞のAkt活性パターンの違いは、Aktの不活性化速度の違いで生じているのではないかと推測しています。HeLa細胞ではAktが形質膜上で活性化され、その後形質膜から離れて細胞質に拡散していきますが、不活性化速度が遅い(すなわち脱リン酸化速度が遅い)のでミトコンドリアくらいまでは十分活性化Aktが到達する。一方、Cos7細胞はAktが形質膜上で活性化されて離れた後、すぐに細胞質中で脱リン酸化されるため、Akt活性が細胞質やミトコンドリアまで到達しないのではないかと推測しています。
?今後の改善点:今回のEevee-iAktは確かにAkt特異的ではありますが、EGF刺激で大体10%ほどしかFRET/CFP比の上昇が認められません。感度をもう少しあげるという点についてはまだまだ改善の余地が有るかと思います。ただCaプローブと同様、感度をあげると速いAktの時間変化をとらえる事が出来なくなると思いますので、トレードオフになります。当研究室では以前Aktの構造変化をとらえるAkindというFRETバイオセンサーを開発しており、こういう手法もありだと思います。ただ今回、私たちもAkindを試してみましたがEevee-iAktよりも感度が低かったです。

余談:
本研究はドイツから一年間留学しにきた三浦晴子さんがメインに行ってくれた研究です。感謝します。
   
   本文引用

1 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻  小澤研究室  桂 嘉宏 Re:Re:Re:Re:Re:Akt活性を特異的に検出する基質型FRETバイオセンサー 2014/01/08
青木先生

私自身もAkt周辺の研究をしていることもあり、大変興味深く精読させていただきました。
これまでにも数種のAktバイオセンサーが開発されてはいますが、Akt活性のライブイメージング研究は驚くほどやられていないという印象があります。

この理由は(私の考えでは)主に以下の2点にあるのではないかと思います。

(1)抗体が揃っている。
(2)AktのPHドメインに蛍光タンパク質を付したもので動態が追える。

しかし、(1)は細胞集団の平均ですし、(2)は「活性」を観ているわけではないですので、
バイオセンサーが与える情報に等価ではありません。
したがって、個々の細胞におけるAktの活性化頻度や持続時間、強度については、今のところほぼ不明かと思います。

今回、高い特異性をもつAktのバイオセンサーを開発されたことで、
今後、ある細胞外刺激のもとで個々の細胞におけるAkt活性化の頻度や持続時間、強度を解析し、
その背後にある細胞間での関係性や法則を「可視化」することができれば、大きなインパクトがあるのではと考えます。


さて、最後に1点質問をさせてください。

Cos7とHeLaでAkt活性の「局在」と「時間パターン」がそれぞれ異なることを示されている点です。
この結果について、脱リン化酵素の反応速度の違いを導入し、Akt活性の「局在」の差異を説明されておりますが、
「時間パターン」の差異(Cos7:持続的, HeLa:一過的)についても, 脱リン化酵素の反応速度の違いで説明できるものなのでしょうか?

むしろ直観的には、HeLaよりもCos7で脱リン酸化が強ければ、時間パターンはCos7:一過的, HeLa:持続的??という印象をもちます。

全体的に大変綺麗なお仕事でとても勉強になりました。
今後の続報を期待して待っております。


      
   本文引用
2 京都大学大学院 医学研究科 時空間情報イメージング拠点  松田道行研究室  青木 一洋 Re:Re:Re:Akt活性を特異的に検出する基質型FRETバイオセンサー 2014/01/09
桂さん

ご無沙汰しております。コメントありがとうございます。

確かに仰られている通り、Akt系はあまりイメージングされていませんね。歴史的にこの業界は生化学的な解析がメインな気がします(mTOR系とかもそうですかね)。Akt-PHドメインは良く使われていますね。ただ、Akt-PHはAkt膜移行センサーとは言えますが、PIP3だけを認識しているわけではないので、PIP3モニターとは言えないと思っています。実際、他のPIP3と結合するPHドメイン(GRPとか)と比べるとあきらかにAkt-PHドメインは膜に行きやすいですし、PIP3の存在量(少ない)を考えるとAkt-PHの膜移行はPIP3以外の何かが重要なことは明らかです。Phosphatidyl serineと結合するという論文も出ていますし(doi: 10.1083/jcb.201005100)。Akt-PHドメインの膜移行の問題は細胞の形態に強く依存するので、定量するのがすこし大変なことですね。こういった点を鑑みても、今回、私達が報告したEevee-iAktはアドバンテージがあると思います。

>Cos7とHeLaでAkt活性の「局在」と「時間パターン」がそれぞれ異なることを示されている点です。この結果について、脱リン化酵素の反応速度の違いを導入し、Akt活性の「局在」の差異を説明されておりますが、「時間パターン」の差異(Cos7:持続的, HeLa:一過的)についても, 脱リン化酵素の反応速度の違いで説明できるものなのでしょうか?むしろ直観的には、HeLaよりもCos7で脱リン酸化が強ければ、時間パターンはCos7:一過的, HeLa:持続的??という印象をもちます。

Reviewerにも同じことを聞かれました。
我々の回答としては、EGF刺激によって脱リン酸化酵素の活性が変化しないとすると(経験的に脱リン酸化酵素の活性は一定で、リン酸化酵素の活性が刺激依存的に変化することが分かっている)、Akt活性の時間パターンは上流の活性化因子であるEGFRやPI3K等の活性変化によってほぼ決まります。論文には書いていませんが、CosとHeLaでEGFRバイオセンサーであるPicchuでEGFR活性を定量すると、CosはEGF刺激によってEGFR活性が持続するのに対し、HeLaは一過的なEGFRの活性化を示します。一方、空間パターンについては、分子の拡散速度と不活性化速度の比(のルート)で決まることが一般化されています。したがって、「時間パターン」はAktの活性化因子が、「空間パターン」はAktの不活性化因子(つまり脱リン酸化酵素)が決めている、というのが今のところの考えです。この様な「時間パターン」と「空間パターン」の概念については、大場さん(北大医)の論文で低分子量Gタンパク質Rasについても同様の議論をしています(PMID 12574122)。

ご参考までに。

青木
      
   本文引用
3 東京大学 大学院理学系研究科 化学専攻  小澤研究室  桂 嘉宏 Re:Re:Re:Re:Akt活性を特異的に検出する基質型FRETバイオセンサー 2014/01/09
青木先生

ご回答大変ありがとうございます。

>Akt-PHドメインの膜移行の問題は細胞の形態に強く依存するので、定量するのがすこし大変なことですね。こういった点を鑑みても、今回、私達が報告したEevee-iAktはアドバンテージがあると思います。

私も経験がありますが、確かにAkt-PHドメインの膜移行の定量は、一般的な蛍光顕微鏡では不可能ではないにしても難しい印象があります。
この辺りについてはやはりTIRF顕微鏡などが威力を発揮するところでしょうか。

>Reviewerにも同じことを聞かれました。
我々の回答としては、EGF刺激によって脱リン酸化酵素の活性が変化しないとすると(経験的に脱リン酸化酵素の活性は一定で、リン酸化酵素の活性が刺激依存的に変化することが分かっている)、Akt活性の時間パターンは上流の活性化因子であるEGFRやPI3K等の活性変化によってほぼ決まります。論文には書いていませんが、CosとHeLaでEGFRバイオセンサーであるPicchuでEGFR活性を定量すると、CosはEGF刺激によってEGFR活性が持続するのに対し、HeLaは一過的なEGFRの活性化を示します。一方、空間パターンについては、分子の拡散速度と不活性化速度の比(のルート)で決まることが一般化されています。したがって、「時間パターン」はAktの活性化因子が、「空間パターン」はAktの不活性化因子(つまり脱リン酸化酵素)が決めている、というのが今のところの考えです。この様な「時間パターン」と「空間パターン」の概念については、大場さん(北大医)の論文で低分子量Gタンパク質Rasについても同様の議論をしています(PMID 12574122)。

なるほど。理解しました。時間パターンはEGFRの活性を反映しているのですね。

同じリガンド、レセプターの組み合わせであっても、細胞によって応答の時間パターンが異なるという現象自体、大変興味深いです。
あとは、活性の時空間パターンによってフェノタイプが変わる・変わらないなどの議論ができれば最高でしょうか。

ご紹介いただいた文献も読ませていただきます。
ありがとうございました。

      
   本文引用


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