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PubMedID 24482116 Journal Science, 2014 Jan 30; [Epub ahead of print]
Title ESCRT Machinery Is Required for Plasma Membrane Repair.
Author Jimenez AJ, Maiuri P, ..., Piel M, Perez F
理化学研究所 統合生命医科学研究センター  免疫シグナル研究グループ    横須賀忠     2014/02/17

ESCRTによる細胞膜修復機構・ESCRTを介するT細胞受容体の放出現象
先週、ESCRT (Endosomal Sorting Complex Required for Transport)に関するイメージングの論文がScienceとNatureに報告されていましたので、ご紹介いたします。

ScienceのResearch articleでは、二光子レーザーを搭載した共焦点顕微鏡とUVレーザーを搭載したスピニングディスク共焦点顕微鏡を用い、HeLa細胞で細胞膜にあいた穴の修復過程にESCRTが寄与するという現象を多角的に調べています。ご存知の通り、ESCRTは基本的には0、I、II、III、Disassembly subcomplexの5つコンポーネントからなる分子集団で、?細胞膜上の蛋白を分解するためのMultivesicular Body (MVB)の形成、?ウイルスのBudding、?サイトキネシス、などを担っています。これらと、細胞膜が障害を受けたときに出来る細胞膜のBuddingとが形態学的に似ていることから実験を進めたそうです。HeLa細胞に?DigitoninやSaponin、?マイクロピペットで機械的に、?レーザー照射、などを用いて細胞膜に傷害を加えたところ、ESCRT-IIIのコンポーネントの1つCHMP4Bがスポット上に集積することが分かりました。この集積はATP非依存的ですが、細胞外カルシウムをキレートするとなくなることから、細胞膜が傷害されて起こるスポット的なカルシウムの流入に反応しているようです。細胞外にPIを加え、細胞内流入量から算出した穴の空いている時間は数100秒で、その直後、CHMP4Bは解離します。Disassembling分子をKDしますと、CHMP4Bが解離できなくなることから、修復機転で、今度はATP依存的なSheddingも起こっているようです。共焦点顕微鏡と同一サンプルを走査型電子顕微鏡で観察しますと、CHMP4Bの集積部位にはBlebやSheddingされた小胞も観察されました。細胞膜の修復機転には、エンドソームによる機構も知られているそうですが、CHMP4Bの集積部位にはエンドソームは来ず、穴の大きさとESCRT依存的修復との相関を数理学的に解析したところ、100nm以下の穴の修復にのみESCRTが関与しているようです。小さな細胞膜のダメージは、膨れて切り取られる、という印象でしょうか。

NatureのLetterは、私の恩師のMichael Dustinの仕事ですが、全反射蛍光顕微鏡と透過型電子顕微鏡とを用いてT細胞免疫シナプスを観察し、免疫シナプスの中心部で起こっている、ESCRTを介したT細胞受容体(TCR)の放出現象を報告したものです。B細胞免疫シナプスでは、中心部に集まったB細胞受容体は抗原を効率良く取り込む機序として知られています。T細胞免疫シナプスでも中心部にESCRT-IのコンポーネントのTSG101やMVBが集まる事から、TCRのInternalizationとDegradationに関与しているのでは、と考えられていました。電子顕微鏡にて詳細な観察を行ったところ、T細胞免疫シナプスの中心部には、細胞膜の所々に半球状の窪みがあり、その中に、TCRが高密度に詰まった直径70nmのMicrovesicleがいくつもあるそうです。TSG101をKDしますと、Microvesicle数は減り、中のTCR もなくなります。Disassembling分子Vps4のDominant negative formを発現させますと、Microvesicleが窪みと繋がったままになります。宿主の蛋白と競合すると考えられているHIVのGagを発現させますと、Microvesicleの中はGagに置き換わります。これはウイルスの放出が方向性を持つ1つの証拠かも知れません。生理的な観点からは、放出されたMicrovesicleがB細胞に接着し、Microvesicle の中のTCRとB細胞上の抗原の特異性がマッチすると、B細胞のカルシウム流入とリン酸化タンパクの増加が起こることから、T細胞の感知した「活性化」を伝搬する1つの手段ではないか、と考えています。
   
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1 京大・生命科学研究科    松田道行 Re:ESCRTによる細胞膜修復機構・ESCRTを介するT細胞受容体の放出現象 2014/02/19
詳細な解説ありがとうございます。電子顕微鏡とライブイメージングと両方の論文でたいへん興味深いです。
細胞膜修復機構はこの論文で使われているplasma membrane repairという名前の方がすっきりします。cellular wound healing(名古屋市立大の河野さんがDavid Pellmanの研究室から二年前に出しました)というと組織修復を思い浮かべてしまうので。小さな傷は穴ごとSheddingして捨ててしまうというのは驚きでした。そのうちだれか穴(<100 nm)そのものも見せてくれるのではないかと期待します。

電顕も3Dが当たり前になってきましたし、Optical–electron microscopy correlationのデータもなるほどという感じです。TIRFからEMに持っていくのはどれくらい大変なのでしょう。日本で見た記憶はないですが。なお、このサイトは、二つは引用できないみたいです。Natureの論文は、こちらです。
      
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2 理化学研究所 統合生命医科学研究センター  免疫シグナル研究グループ  横須賀忠 Re:Re:ESCRTによる細胞膜修復機構・ESCRTを介するT細胞受容体の放出現象 2014/02/19
ご意見をありがとうございます。

ご指摘の通り、ライブイメージングとEMとを同一サンプルで行うことの利点を生かしているようです。Washington Univ StのJohn Heuserも10年位前から免疫シナプスのEMに取り組んでいましたが、Clathrin-coated vesicleがあったというだけで、それ単独の論文にはなりませんでした。ライブイメージングで生理活性など、形態学以外の情報を補う重要性を感じます。

Science論文でも、途中からUV laserによる細胞膜障害のみで実験を進めておりますので、本当にどの程度の穴が空いているかわかりません。カルシウムの流入も実際に見たわけではありません。カルシウム結合ドメインの変異ALIXでは機能しないことを根拠に述べています。

SEMの経験はありませんが、TIRFからTEMに持ち込んだことはございます。Z軸断面での免疫シナプスの解析が目的でしたので、人工脂質膜の付着しているカバーガラスの切断、という問題に直面しましたが、包埋剤ごと細胞をガラス平面から剥がせるようで、トリッキーな操作は外注で可能でした。TIRFで観察した細胞との同一性は確認できませんでした。XY断面でのTEMでは、細胞の撒かれているパターンによって細胞の同定を行っているのでしょうか。
      
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