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PubMedID 21854984 Journal Cell, 2011 Aug 19;146(4);593-606,
Title Cytoskeletal control of CD36 diffusion promotes its receptor and signaling function.
Author Jaqaman K, Kuwata H, ..., Danuser G, Grinstein S
東京大学大学院理学系研究科化学専攻分析化学研究室  小澤岳昌研    小澤岳昌 吉村英哲     2012/05/28

1分子追跡による受容体クラスター形成と細胞骨格との相関解析
細胞が外部からのシグナルを受容する時、対応する受容体がクラスター形成することが知られつつあります。今回ご紹介する論文では、受容体の膜骨格メッシュ内への閉じ込めが、受容体クラスター形成とシグナル入力に重要なファクターであることを論じています。

この論文ではマクロファージ上で酸化LDLなどを感知する受容体CD36を対象に、1分子追跡実験を行っています。その結果から、CD36の拡散運動には3つのタイプ(直線運動、非閉じ込め等方的拡散運動、閉じ込め等方的拡散運動)があることを見出しています。これらの中で特に直線運動に注目して解析を行った結果から、以下のことを示しています:ここで見られている直線運動はモータータンパク質による輸送ではなく、細長い長方形の膜骨格メッシュ構造内に閉じ込めらることで生じている。閉じ込められていることで受容体どうしの衝突頻度が上がり、クラスター形成を促している。膜骨格の構造を乱すと直線運動をしているCD36の割合、クラスター形成、シグナル入力能のいずれもが低下する。

受容体のクラスターを具体的に可視化解析した研究があまりないため、その詳細な物性は十分理解されているとは言えません。この論文でも複数分子の受容体1分子同士の共局在を検出することでクラスターが形成されていると定義しています。しかし、生細胞上で受容体どうしの集合・解離をリアルタイムで可視化検出し、膜骨格による閉じ込めがシグナル伝達に重要な受容体の集合を促していることを分子運動の解析から見出したという点で、非常に興味深い研究だと思います。
また、1分子観察実験は近年ずいぶん敷居が低くなってきた感がありますが、その一方でアーチファクトの影響を受けたり、間違ったデータ解釈に陥りやすい手法でもあると思います。その点、この論文はデータの解釈を裏付けるために様々な検証実験を行っており、1分子観察実験をデザインするに当たっても参考となります。
   
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