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PubMedID 22863004 Journal Cell, 2012 Aug 3;150(3);495-507,
Title The first five seconds in the life of a clathrin-coated pit.
Author Cocucci E, Aguet F, Boulant S, Kirchhausen T
名古屋大学医学部細胞生物学  宮田卓樹研究室    榊原明     2012/08/24

定量的解析の重要性
実験結果の解釈に説得力を与えるためには生物学的事象の定量的解析が重要であることはいうまでもありませんが、この論文では細胞膜の細胞質側でクラスリン被覆ピットが形成される際の初期反応をTIRFにより一分子レベルの蛍光強度変化を捉えることで調べ、さらにシミュレーションで検証しています。蛍光標識したクラスリン短鎖、AP2複合体の細胞膜への集積過程における蛍光強度の増加を解析する際には、重合の基本単位であるクラスリン-トリスケリオン複合体(3量体)ひとつあたりに含まれる蛍光タンパク質数についてGFP融合蛋白質発現細胞における内在性蛋白質との発現レベルの比から期待される値を考慮して行なうなど、なるほどと思わせる解析を行なっています。また、FCHo1/2が被覆ピットの形成開始に関与するという先行論文での主張を無理のない説明で引っくり返しています。先行論文で観察していたFCHo1/2がクラスリンより早く細胞膜に集積するという現象は、(1)ごく初期に存在するはずの少数分子の蛍光標識クラスリン集積を検出できなかったこと、(2)蛍光標識FCHo1/2の過剰発現がクラスリン被覆ピットの形成を促進すること、などに起因する可能性が高いと思われます。常日頃、組織の中にいる蛍光標識細胞を観察していると、観察している細胞と対物レンズの間に存在する組織が蛍光強度に及ぼす影響が大きく、一分子観察どころか発現レベルが比較的低く過剰発現の影響が小さい細胞を選ぶ程度のことしか出来ていませんが、今後の研究の進め方について考えさせられる論文でした。
   
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1 京都大学生命科学研究科  生体制御学  松田道行 他山の石 2012/08/30
私も、久々に一分子の論文を読んでみました。テクニカルには、柳田敏雄先生たちがやっている一分子イメージングからの進歩はほとんどないように思います。同じイメージングとは言っても、まったく違う世界ですよね。量子力学の世界に近く、1次元の観測データから、確率論的に「考えうるモデルの中で」このモデルがもっとも近いと言っていて、Higgs粒子があると考えるのがもっとも妥当、という実験手法と同じだと思いました。

わたしはいつも細かいところが気になります。今回はFCHo shRNAのデータが気になりました。FACSのデータを見ると、半分の細胞はTransferinの取り込みがが1/10くらい、残り半分はほぼ効果なしという二群に分かれています(つまりT/F効率が半分で、T/Fされた細胞では非常によく効いていると解釈される)。FCHo shRNAのclathrin coated pit のcommittmentに対する効果は非常に大きいので、おそらくデータを取るのに選んだ5個の細胞は、T/Fがよかった細胞を選んでいると思われます。イメージングのいいところ(悪いところ)は、細胞を選ぶ時に「いいデータ」が取れそうな細胞を選んでしまうというところですね。これを利点と考えるか捏造と考えるか、他山の石としたいと思います。
      
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