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PubMedID 23202272 Journal Nat Immunol, 2012 Dec 2; [Epub ahead of print]
Title Conformational states of the kinase Lck regulate clustering in early T cell signaling.
Author Rossy J, Owen DM, ..., Yang Z, Gaus K
理化学研究所 免疫シグナル研究グループ  (斉藤隆研)    横須賀忠     2012/12/11

超解像顕微鏡で既存のコンセプトを再検討する
TCR/CD3複合体の活性化は、Srcファミリーキナーゼの1つLckによるTCR/CD3のリン酸化から始まります。Lckの活性化調節機構として、Lckは、N末のチロシン残基のリン酸化により、Lck自身のSH2ドメインを介してClosed(=不活性型)し、脱リン酸化によりOpen(=活性化型Lck)となり、この脱リン酸化は膜型フォスファターゼCD45によって行われることが知られています。CD45は一度Lckを脱リン酸化すると、TCR/CD3複合体-Lckから離れ、それに続くTCR下流分子の脱リン酸化を行わないように調節されています。しかし、2年前に、リン酸化Lckの量を詳しく定量したところ、無刺激状態で既に40%のLckが脱リン酸化されたOpenな状態であり、TCR刺激によってその割合が上昇することもない、という報告がありました(Immunity, 2010, 32:766-777)。 活性型・不活性型LckをPALM/STORMで観察すると、どのような挙動を示すのだろうか、というのが今回の論文です。

結論的にはLckの活性化状態の変化云々ではなく、Lckの局在の変化がTCR/CD3の活性化を制御しているのだろう、ということです。TCR刺激以前からLckの小さなクラスターが細胞膜に存在しており、TCR刺激により、数は少なくなる一方、大きく、高密度で、歪んだ形状に成長していきます。この変化は、Lckのキナーゼ活性や、TCR下流分子との結合によるものではなく、LckがClosedかOpenかのみによって規定されていることがLckの変異体を用いた実験で示されています。また、刺激前も刺激後もCD45とは距離を置いており、一方、TCR刺激後にはLckとTCRのクラスターが重なることから、このOpenなLckのクラスターがTCR/CD3のリン酸化を惹起しているのではないかと云うわけです。

超解像顕微鏡自体、誰もが持っているわけではありませんので、最初に「見た」と言われれば、「そう」と言うしか云いようがありません。多くのデータが生理学的現象との相関性のみで、どこまで正しく生物学を反映しているのか悩む所です。PALM/STORMを用いたTCRと膜型アダプターLATの最初の解析が2010年にMark Davis & Jay Grovesから、2011年にKatharina Gaus(今回の著者)からそれぞれNature Immunologyに報告されました。前者は、TCRとLATのプレクラスターがそれぞれ存在し、TCR刺激によって二者が融合して刺激が入る、後者は、LATのプレクラスターはTCRシグナルとは無関係で、新たに細胞内からリン酸LATのクラスターが出現しこれがT細胞の活性化を惹起する、と結論付けています。TIRFMを用いても、細胞膜にある分子と、細胞膜に限りなく近づいた細胞質の分子との判定の難しさを含んでいます。High impact factor journalの要求する結果の目新しさだけでなく、複数の論文を総合的に判断するのがよいのでしょうか。
   
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1 京都大学  生体制御学  松田道行 Re:超解像顕微鏡で既存のコンセプトを再検討する 2012/12/18
超解像顕微鏡の威力を見せた素晴らしい論文と思いました。ところで細胞を固定した影響というのはどの程度あるのですかね。固定は13 minとずいぶん細かい数字が書いてありました。13分もかかるなら、その間に細胞膜上の分子の場所なんて相当変化してもいいのではないかと思います。安田涼平さんがやっているようなFLIMを使ったLiveイメージング系での検証が必要かと思います。先般の分子生物学会での安田先生のプレゼンでは、標的分子の両側にドナー蛍光タンパク質をつけるとFRET効率が上昇することを示してました。これはつまりFLIMの系だとある程度の分子のClusterがあれば見える(by-stander FRET)ということなので、この論文にあるような仕事をvivoで検証するにはいいのかなと思います。
脱線しますが、SrcがC末のリン酸化とSH2ドメインの相互作用で負に制御されているというモデルは小生が1990年にRockefeller大学の花房研究室にいるときに発表させていただきました。でも、そのあと数年後にはSrcファミリーのLckは定常状態でもC末があまりリン酸化されていないということが言われたので、気になっている分子の一つです。
      
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2 理化学研究所 免疫シグナル研究グループ  (斉藤隆研)  横須賀忠 Re:超解像顕微鏡で既存のコンセプトを再検討する 2012/12/18
Srcの釈迦に説法のようで恐縮です。ご指摘の通り、4% PFAで13分固定、という変な数字ですが、実際Lckのような細胞表面分子はもっと早く固定されてしまうのではないでしょうか。我々が細胞内タンパクのリン酸化やサイトカイン分泌などをFACSでみる場合は、2% PFA 5分 37oC+10分 On-iceがベストでした。論文では、Figure 5としてLive cell PALMのデータを掲載しており、固定した場合との違いはないようです。しかし、PALMで撮る限り、それなりの時間が必要でしょうから、その間に起こるような早い出来事があったとしたら、松田先生の仰るようなFLIMを使ったLiveイメージングでないと分からないかも知れません。また、ご承知の通り、MicrotubuleなどはCold PFAを加えただけで崩れてしまうとよく耳にしますので、細胞内分子の観察にもLiveイメージングは必須なんでしょう。

標的分子の両端にドナー蛍光タンパクを付ける、そういう方法も有りなのですか。レトロウイルスでT細胞に導入する場合、またHomologous recombinationのようなことが起きてしまいますね。
      
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