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PubMedID 23103964 Journal Nat Neurosci, 2012 Nov;15(12);1742-51,
Title Fluorescent and photo-oxidizing TimeSTAMP tags track protein fates in light and electron microscopy.
Author Butko MT, Yang J, ..., Tsien RY, Lin MZ
東京大学 大学院理学系研究科化学専攻 分析化学研究室  小澤岳昌研究室    吉村英哲     2013/01/15

特定の時点に新生されたタンパク質を追跡できる蛍光プローブ
Roger Tsien、Michael Linのグループから、TimeSTAMP2と名付けた蛍光プローブを用いて、PSD95の、合成されてからの局在変化を追跡した論文が発表されました。

TimeSTAMP2は2008年のPNAS(Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2008, 105(22), 7744-7749)で彼ら自身が報告したTimeSTAMPの改良版で、以下の原理で機能します。
観察目的のタンパク質に二分割蛍光タンパク質とNS3プロテアーゼを融合します。蛍光タンパク質各断片とNS3プロテアーゼは、NS3プロテアーゼで切断されるリンカーを介してつながれています。このタグ付きタンパク質が合成されると、NS3プロテアーゼがリンカーを切断し、二分割蛍光タンパク質が解離するので、蛍光タンパク質は再構成されません。一方、NS3プロテアーゼの阻害剤を作用させると、リンカーは切断されず、蛍光タンパク質の再構成が起こります。ある特定のタイミングでプロテアーゼ阻害剤を作用させ、その後washoutすると、プロテアーゼ阻害剤が作用していた間に産生されたタンパク質のみが蛍光標識され、その後の動態を追跡できる、という原理です。この論文では主に、蛍光タンパク質としてVienusを採用したもの(TS:YFP)を用いています。

筆者らはTS:YFPとPSD95の融合タンパク質PSD95-TS:YFPを作成し、PSD発現の局在とその後の局在変化を解析しています。その結果、産生されたPSD95は最初細胞体に存在しており、その後樹状突起先端方向に輸送されること、特定のシナプス末端にBDNF刺激を与えると、刺激されたシナプス末端で発現が起こること、PSD95-TS:YFP発現系の3’UTR(PSD95由来)を取り除くとシナプス末端へのBDNF刺激下でも細胞体での発現が優勢になること、などが示されました。

これらの結果は、定常的にはタンパク質そのものが輸送されて局在が現れているが、速やかなレスポンスが必要な場合はその場合成が行われる、ということを実験的に示しています。タンパク質の局在はタンパク質輸送と局所的発現のどちらで起こるか、という問題に実験結果を通じて一定の回答を与えている点で、興味深く読みました。最近タンパク質だけでなくmRNAの細胞内局在についてもさまざまな報告があります(私たちもプローブ開発を通じて少し携わっています)。細胞内のmRNA分布とタンパク質分布(新生および全体)について可視化定量できれば、外部シグナルに対する応答について、シグナル伝達経路の解析とは異なる、新たな議論が展開できるかもしれません。
   
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