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PubMedID 23329049 Journal Science, 2013 Jan 18;339(6117);328-32,
Title Interstitial dendritic cell guidance by haptotactic chemokine gradients.
Author Weber M, Hauschild R, ..., Bollenbach T, Sixt M
関西医科大学附属生命医学研究所・分子遺伝学部門  木梨研究室    片貝 智哉     2013/02/12

生体内のケモカイン濃度勾配による樹状細胞のケモタキシス
 ケモカインは免疫応答をはじめとした生体現象の様々な局面において、濃度勾配によって細胞のケモタキシス(走化性)を誘導すると考えられている低分子量のタンパク性因子です。確かにin vitroではケモカインによる明確なケモタキシスの例が数多く知られていますが、実は、生体内において実際にケモカインの濃度勾配が存在し、それにより細胞が誘引されているという事例はこれまで数例しか確認されていません。なかでも本領域計画班員の岡田先生は2005年に発表された論文の中で、ケモカインCCL21の濃度勾配がリンパ節内のある領域に存在し、それに依拠したリンパ球のケモタキシスがあることを、二光子顕微鏡観察を用いたライブ観察ではじめて報告されています(Okada et al., PLoS Biol. 3:e150, 2005)。記念碑的なすばらしい仕事です。
 さて、今回ご紹介する論文は、皮膚において免疫細胞の一種である樹状細胞が示すケモタキシスについての報告です。皮膚には多数の樹状細胞が存在し、様々な刺激に反応して近傍のリンパ管まで組織間質内を移動し、リンパ節へ向かいます。この過程はリンパ管内皮細胞が産生するCCL21によるケモタキシスであろうということはある程度予想されていましたが、今回、その濃度勾配が実在し、機能していることを示しています。まずマウス耳介の組織内の定量的な抗体染色により、リンパ管からの距離に応じて減衰するCCL21の濃度勾配を確認しています。また、二光子顕微鏡により観察した耳介組織内における樹状細胞の実際の動きが、数理解析により濃度分布から予想される運動のベクトルやリンパ管からの距離の限界値と良く一致することを示しています。皮膚のリンパ管網の密度は、ちょうどケモカインがつくる濃度勾配の「場」が組織の大部分をカバーできるように適度な状況に設定されているというのです。つまり樹状細胞がどこにいても最寄りのリンパ管に素早く到達できるようなケモカインフィールド内に入っていると言う訳です。さらに、実験操作がしやすい組織片を用いた観察系を活かして、過剰なケモカイン添加や、ヘパリチナーゼ処理による固層化糖鎖の消化で濃度勾配をなくすと、ケモタキシスが抑制されることを示しています。
 ひとつひとつの観察手法や実験操作は比較的単純でそのほど凝ったものではないように感じますが(それでもかなりノウハウはあるのでしょうが)、それそれのデータがしっかりしていますし、生物学的な意義を含めて全体としてスマートな仕事であるという印象を受けます。これまで何となくそうだろうなと思われていたことを、観察系の特性をうまく捉えて、ハッキリさせたといったところでしょうか。
   
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