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PubMedID 23511416 Journal Nat Chem, 2013 Apr;5(4);282-92,
Title Enzyme-free translation of DNA into sequence-defined synthetic polymers structurally unrelated to nucleic acids.
Author Niu J, Hili R, Liu DR
東京大学医学系研究科   浦野研究室    神谷 真子     2013/04/20

DNAを鋳型として非酵素的に合成ポリマーを翻訳する
蛋白質に代表される生体分子が様々な生理機能を果たしていることは周知の事実ですが、近年ではこの蛋白質の機能を模倣した“合成ポリマー”の開発に注目が集まっています。しかしながら既存のポリマー合成法では、構造や分子量(大きさ)が均一な合成ポリマーを作製するのが難しいという問題点がありました。つまり、再現性よく均質なポリマーを合成したり、ポリマー構造の一部を狙って改変するのが難しいとされてきました。

そこで筆者らは、蛋白質の場合、DNAのコドンに対応したtRNAを用いることでDNA配列依存的に翻訳されることに着目し、tRNAの代わりに5塩基対をコドンとするPNAアプタマーを用いることで、鋳型DNA配列に対応したポリマーを合成する手法を考えました。

具体的には、以下の3つのパーツから構成される大環状分子を用います。
? 鋳型DNAの5塩基対に特異的に結合するPNAアプタマー
? ポリマー原料。両端にクリックケミストリーなどのマイルドな条件下で化学結合を形成する置換基(アジド基、アルキン基など)を組み込んでおきます。
? ?と?をつなぐ分解性リンカー(S-S結合)
このような大環状分子を用いることで、DNA配列特異的にポリマー原料を配列させることが出来ます。さらにクリックケミストリーでポリマー原料同士を重合させ、S-S結合を切断してPNAアプタマーを解離させれば、設計通りポリマーを合成することが出来ます。

このようなDNAを鋳型とした合成法を用いることで、合成ポリマーの構造・配列・分子量を精密に制御して均一なポリマーが合成できるようになりました。また、種類の異なるポリマー原料(PEG, beta-peptideなど)を同一ポリマー内に組み込むことも可能であることから、合成ポリマーの多様性も広がります。さらに本手法は、合成に用いた鋳型DNAがPCRにより増幅・回収可能で再利用可能であることから、機能性ポリマーのスクリーニングへの応用にも期待されます。化学を巧みに使って生物のもつ翻訳系の多様性を実現する素晴らしい試みだと思います。今後、蛋白質のような多様な機能を有する合成ポリマーが誕生する日も近いのかもしれません。
   
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