PubMedID |
21258368 |
Journal |
Nat Cell Biol, 2011 Feb;13(2);117-23, |
Title |
Oct4 kinetics predict cell lineage patterning in the early mammalian embryo. |
Author |
Plachta N, Bollenbach T, ..., Fraser SE, Pantazis P |
大阪大学 生命機能研究科 近藤寿人 2013/10/18
FRAP(fluorescence recovery after photobleaching)やFDAP(fluorescence decay after photoactivation)など、細胞内分子の可動性を測定する方法は、エンハンサーDNAに結合するタイプの転写(制御)因子の作動状態に関する有用な情報を与えうるものであると期待される。(班会議でもお話ししたように)実際に転写制御を行っている転写因子のFRAP/FDAP のt1/2は数秒以内であり、immobile fractionはない。
ここに紹介する論文は、2細胞期のマウス胚の一つの核にOct4とpa (photo-activatable) GFPとの融合蛋白質の発現ベクターを注入して、その細胞に由来する卵割後期の細胞の核の中でのOct4-paGFPのFDAPを測定したものである。そして、卵割後期の核のOct4-paGFPのFDAPについて、t1/2が約1500秒でimmobile fractionが小さな(10〜20%)グループと、t1/2が約6000秒でimmobile fractionが大きな(40〜50%)の2つのグループに分かれることを示した。
この報告で、t1/2が非常に大きいのは、核の中のphotoactivationの場所で局所的に起きる早いFDAP過程はいっさい測定せずに、光活性化Oct4-paGFPが核全体に拡散したあとの、核と細胞質の間の輸送を介したfluorescence decayを測定しているからである(ROIは核の90%のサイズ、計測は5分間隔の3次元scan)。その意味で、通常のFDAP計測とは異なる。
興味深いことに、これらの2つのグループの割球の発生運命を調べてみると、t1/2が大きなグループは将来内部細胞塊に発生する割合が高く(70%)、一方t1/2が小さなグループは将来栄養芽細胞に発生する割合が高い(90%)ことがわかった。この結果から、卵割期に特有の大量のOct4を、核に係留するmodeの違いが、割球の発生運命に相関していることがいえるであろう。
しかし、著者たちは(自己撞着的な)別の解釈をしていて”The differences revealed by FDAP are due to differences in the accessibility of Oct4 to its DNA binding sites in the nucleus”とSummaryの中で結論付けているが、おそらくこの解釈は正しくない。著者たちの論拠の1つは、Oct4-paGFPの発現水準が内在のOct4と同等であるということだが、そもそも卵割期のOct4は母性因子としてその後の発生段階まで機能すべく過剰に蓄積されているはずで、したがって内在のOct4自体、その割球での転写制御に必要な水準からすれば大過剰だろう。著者たちのもう一つの論拠は、homeodomainを欠いた(ΔHD)Oct4-paGFPを発現すると、すべての割球でt1/2が1500秒のグループになったということである。しかし、Oct4の主たるDNA結合ドメインはPou-specific domainであり、一方homeodomainは蛋白質間の相互作用にも積極的に関与する。
著者たちが行った計測から、Oct4と制御標的DNAとの相互作用を論ずることはできない。Oct4と制御標的DNAとの相互作用を解析するのが目的であれば、光活性化直後の局所的な早いFDAPを計測すべきであり、またDNA結合反応を反映した計測であることを確認するためには、Oct4のPou-specific domainにアミノ酸置換を施したものを用いるべきであった。
著者たちが報告した現象は大変興味深い。その現象に対して正しい解釈を与えることによって、卵割期の転写因子の挙動から卵割期の発生の制御に新しい光が当てられる可能性がある。