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PubMedID 24097271 Journal Nat Methods, 2013 Nov;10(11);1122-6,
Title Instant super-resolution imaging in live cells and embryos via analog image processing.
Author York AG, Chandris P, ..., Chitnis A, Shroff H
徳大 HBS研究部  バイオイメージング研究部門    堀川一樹     2013/11/08

最大100Hzでの超解像イメージング
構造化照明法、局在化法など様々な超解像原理が報告されていますが、高速化の限界や光毒性などが問題になっています。この論文では、驚くほど単純な方法で高速超解像化を可能にするInstant SIMという手法が報告されており、おそらく今後最も汎用的に利用されることを予感させる内容となっています。

結論としては、
1) 空間分解能 145nm(xy)、350nm(z)、 最大100Hzでの画像取得が可能。(構造化照明+αとデコンボリューションの組み合わせ)
2) GFPタグ分子のイメージングで、ミトコンドリア、ER、微小管の微細構造を10ミリ秒間隔でライブ観察できる。→普段使っているサンプルでOK!
3) 単純な光学系であり、一般の点スキャン型もしくはニポウディスク型共焦点顕微鏡をちょっと改造するだけで実装できるので、間違いなく身近な顕微鏡になると期待。
ということです。

論文そのものは観察例の紹介がメインとなっており、データを見ればその有効性は一目瞭然です。ただし原理についての解説があまりないので、エッセンスだけ解説しておきます。

もともと、2010年にPhysical Review Lettersに報告されている空間分解能を倍化するための(それなりに高級な)原理を、根拠にしています。ポイントは、観察光学系においてピンホールを通過する光が、点ではなく面で検出される際の特徴に注目した手法だという事です。

通常のレーザー共焦点顕微鏡では、観察光学系上のピンホールを通過した光を、PMTで点として検出しますが、CCDやcMOSなど十分な解像力をもった面で検出する場合には、平面上にひろがる輝点の分布が得られます。空間分解能を劣化させる輝点の広がりが生じる原因は、ピンホールの中心を通過して結像する成分に加え、ピンホールの端を通過する光が光軸中心から放射状にある量だけずれて結像する成分が存在することにあります。ただしこのシフト像は輝度値が小さくなりますが、分布パターンそのものは変わりません。したがって分解能を低下させるこのシフト像を、適切に位置補正すれば空間分解能を向上させる事ができるはずで、筆者らはこの補正をデジタル処理で行うMultifocal SIMと呼ばれる方法を2011年にNature Methodsに発表済みです。ただしMultifocal SIMでは、照明の構造化パターンが異なる複数毎の画像を取得したのち、デジタル処理で超解像化を行うため、時間がかかるという問題がありました。今回筆者らは、ピンホールの中心からずれた位置を通過してできる像を、ピンホールの中心部を通過してできる像に重ね合わせることを、たった一つの光学素子、つまりマイクロレンズのアレイを観察光学系に追加することで実現しています。光軸中心部から辺縁部に向かって放射状にシフトされた像を中心部にむかって適切な量だけ再圧縮させ、光学的に超解像化できる事を示しています。(今回の光学系でのシフト量は2倍圧縮)

特筆すべき点は、システムの基本構成が既に市販されている点走査型やニポウディスク型共焦点顕微鏡とほとんど変わらないという事です。必要なのは、光学系に依存する適切な倍率のマイクロレンズアレイの追加と、画像取得後にデコンボリューションをかけることだけですから、ハードとしての実装に大きな困難はないので、すぐにでも市販されるのではないかと期待します。我々が普段イメージングに用いている蛍光遺伝子を発現する細胞や動物をそのままの感覚で使えることも大きな利点ですので、突き抜けた空間分解能は必要ないが、ライブでの高速超解像イメージングを行いたいというユーザーにはうってつけの技術です。

スキャンむらの問題など今後改善すべき点もありますが、二光子顕微鏡への応用、既存の共焦点顕微鏡への組み込みなどすぐにでも実現されそうな、わくわくする内容です。
   
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