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PubMedID 24206842 Journal Curr Biol, 2013 Nov 4;23(21);2079-2089,
Title Tks5 and SHIP2 Regulate Invadopodium Maturation, but Not Initiation, in Breast Carcinoma Cells.
Author
慶應義塾大学医学部  微生物学・免疫学教室    白壁恭子     2013/11/13

invadopodiaのイメージング
癌細胞表面のinvadopodiaと呼ばれる突起は、細胞外基質を局所的に分解する事で癌細胞の運動性を高め、浸潤・転移を促進すると考えられています。この論文はinvadopodiaに集まるタンパク質や濃縮する脂質成分をリアルタイムイメージングする事で、invadopodia形成の分子メカニズムを解析したものです。私が興味を持っているシェディングと同様“細胞表面でおこる現象”を対象にした研究である事からこの論文を選ばせて頂きました。

著者たちが開発したinvadopodiaを解析するためのシステムについてはMethods in Molecular Biology(pubmed ID #23868599)で紹介されています。顕微鏡については、Olympus IX-70を土台に、装着したフィルター(excitation: 6、emission: 6、ND: 7、ダイクロイックミラー: 3、Dual-View: 2)が紹介されており、光を6 %だけ反射する鏡をダイクロイックミラーの代わりに使って観察できる蛍光タンパク質の種類を増やしたり、CRIFFというオートフォーカスモジュールをemissionフィルターホイールと手作りで組み立てたりしたと書いてありました。解析ソフトについては、ImageJのプラグインとして“Invadopodia tracker”を開発し、ある画像で複数のinvadopodiaを指定すれば、その前後の画像で個々のinvadopodiaがどの位の蛍光強度を示したか、平面上のどこにいたかを自動で追跡できるようにしたとありました。その結果として、特定のタンパク質がどのタイミングでそのinvadopodiaに到達したか、いつまでいたか、そのinvadopodiaがどの程度動いたか、がわかるようになったとの事です。

論文ではこのシステムを使って、癌細胞にEGFをかけて数分でできるinvadopodiaを観察しています。実験結果は以下の通りです。

・ TagRFP-cortactinの濃縮を基準にした時GFP-cofilin、GFP-actin、YFP-N-WASPは同時に濃縮し始めるが、GFP-Tks5の濃縮は約20秒遅れる(6秒刻みの観察)。
・ 内在性Tks5の発現をsiRNAで抑えると、TagRFP-cortactin濃縮点の寿命が短くなり、運動性も高くなる。
・ TagRFP-cortactin濃縮点の寿命の短縮は野生型Tks5で回復するが、PI(3,4)P2と結合できない変異体Tks5では回復できない。
・ 完成したinvadopodiaではPI(3,4)P2濃度が高くPI(3,4,5)P3濃度が低い。
・ PI(3,4)P2濃度の上昇はTagRFP-cortactinの濃縮よりも約4分遅い(1分刻みの観察)。
・ 完成したinvadopodiaにおいてSHIP2という5'-イノシトール脱リン酸化酵素の濃縮が見られ、SHIP2濃縮のタイミングはTagRFP-cortactinの濃縮よりも約3.5分遅い(1分刻みの観察)。

以上の結果からinvadopodia形成の分子メカニズムについて、

Cortactinコンプレックスがまず集まり、Tks5が後に加わり、SHIP2が来てPI(3,4)P2を産生すると、PI(3,4)P2とTks5が結合してinvadopodiaが安定化する

と結論づけています。

この論文で使われている手法はシェディングの観察にも十分応用できると思いましたが、短時間で確実にシェディングを誘導できる系と、シェディングを特定の場所に濃縮させる技術が必要になるように感じました。
   
   本文引用



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