報告

班員、国内外の招待演者、一般参加者など300名を超える参加者があり、狭い会場が熱気であふれかえるものとなりました。(画像にカーソルを置くと拡大表示します。またクリックすると別ウィンドウで開きます。)

プレナリー講演

Eric Betzig博士Eric Betzig博士
Eric Betzig博士
プレナリー講演のトップは、2014年ノーベル生理学賞のEric Betzig博士にお願いしました。Betzig博士はノーベル賞受賞の理由となったPALM (Photoactivated localization microscopy) の話ではなく(これは光毒性が強くて使えないと言わんばかりでさっと流されて驚きました)、構造化照明(Structured Illumination Microscopy, SIM)について主に講演されました。特にBesselビームを用い、光毒性を低下させることで、まさしく電顕で見ているような解像度のライブイメージができることを示されました。糸状突起が波打っている様子などはSeeing is believingの真骨頂でした。

Lihong Wang博士Lihong Wang博士
Lihong Wang博士
二日目のプレナリー講演は、光音響イメージングの権威であるLihong Wang博士です。蛍光イメージングの限界である深部イメージングを光音響イメージングが超えることは原理的に当然ですが、そのかわりに解像度は蛍光顕微鏡にはるかに及ばないとされていました。Lihong Wang博士は多数の検出器を使うなどの工夫で顕微鏡並みの解像度を出すことを示され、多くの聴衆の度肝を抜きました。

二人のプレナリー講演の演者の発表は、限界は破るためにある、という言葉がぴったりの講演でした。

セッション1

セッション1では、座長の宮脇敦史博士は自らが開発した多くの蛍光タンパク質について発表されました。ウナギから単離したUnaGによるビリルビン検出系の開発など、奇想天外な展開に驚きの声が上がっていました。
Samie Jaffrey博士は、RNAアプタマーに着想を得て、GFPと同じような蛍光を発するRNAを開発した話など、RNAイメージングの最先端を発表されました。
Na Ji博士は、天体望遠鏡で鮮明な画像を得る技術として研究が進んでいる補償光学(Adaptive Optics)の顕微鏡への応用についての発表をされました。
このセッションは、顕微鏡もそれを見るためのツールも飛躍的に進歩しつつあるということを感じさせる講演でした。

  • 宮脇敦史博士宮脇敦史博士
    宮脇敦史博士
  • Samie Jaffrey博士Samie Jaffrey博士
    Samie Jaffrey博士
  • Na Ji博士Na Ji博士
    Na Ji博士
  • 質疑応答質疑応答
    質疑応答

セッション2

セッション2では、根本知己博士もまた補償光学(Adaptive Optics)がいかに解像度をあげ、多光子顕微鏡において深部までのイメージングを可能とするかということや腫瘍のライブイメージングなどについて紹介されました。
Vatentin Nägerl博士はPALMと並ぶもう一つの超解像イメージング技術であるSTED (Stimulated emission depletion)顕微鏡を多光子レーザーで使うことで、シナプスの構造変化が観察できることを発表されました。記憶の分子メカニズムを形態から迫るものでした。
また、松崎政紀博士は、マウス大脳皮質の神経細胞の興奮を二光子顕微鏡を用いたカルシウムイメージグで観察し、学習のメカニズムについて発表されました。

  • 根本知己博士根本知己博士
    根本知己博士
  • Vatentin Nägerl博士Vatentin Nägerl博士
    Vatentin Nägerl博士
  • 松崎政紀博士松崎政紀博士
    松崎政紀博士
  • 質疑応答質疑応答
    質疑応答

セッション3

セッション3は免疫のセッションでした。
岡田峰陽博士はリンパ濾胞の形成においてTリンパ球からBリンパ球への情報の受け渡しがどのように行われているのかを二光子顕微鏡を使ったライブイメージングで示されました。そして、様々なノックアウトマウス等を使って免疫細胞がどのようにリンパ濾胞内に集まっていくかの分子機構までも明らかにされました。
Guy Shakhar博士は悪性黒色腫細胞を細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が排除する過程を多光子顕微鏡過程で解析し、組織酸素濃度との関連を明らかにされました。
椛島健治博士は接触性皮膚炎が起きるメカニズムを生き生きとした多光子顕微鏡ビデオ画像を使って、抗原提示細胞の移動という観点から解析した結果を提示されました。
免疫セッションの最後は、木梨達雄博士がT細胞の移動にはインテグリンを介した低分子量GTP結合タンパク質Rap1の活性化が必要であるということを多光子顕微鏡でバイオセンサーを観察した結果をもとに発表されました。
免疫細胞の動態を観察しその分子機構を解明するうえで、多光子顕微鏡の果たす役割は非常に大きいと実感させられるセッションでした。

  • 岡田峰陽博士岡田峰陽博士
    岡田峰陽博士
  • Guy Shakhar博士Guy Shakhar博士
    Guy Shakhar博士
  • 椛島健治博士椛島健治博士
    椛島健治博士
  • 木梨達雄博士木梨達雄博士
    木梨達雄博士

セッション4

セッション4も多光子顕微鏡を使ったin vivoマウスイメージングのセッションで、今村健志博士が腫瘍について、Charles Lin博士がマウス骨髄について、さらに戸村道夫博士がリンパ球のホーミングについて発表されました。
いずれも生きたマウスを観察しないとわからない様々な観察結果で多光子顕微鏡技術の面目躍如たるものがありました。

  • 今村健志博士今村健志博士
    今村健志博士
  • Charles Lin博士Charles Lin博士
    Charles Lin博士
  • 戸村道夫博士戸村道夫博士
    戸村道夫博士
  • 質疑応答質疑応答
    質疑応答

セッション5

セッション5では、光透過性が低いとされる骨組織がテーマでした。
石井優博士は、骨芽細胞と破骨細胞の動態がスフィンゴシン1リン酸で制御されることや破骨細胞の活性化をpH感受性プローブで示されるなど、分子機構にまで迫る研究は迫力がありました。
João Pereira博士は骨組織に探究系の細胞が集合するメカニズムとしてGi共役受容体であるEBI2が重要な働きをすること、この受容体がステロールにより活性化されることを示されました。
長澤丘司博士は、CXCL12発現網状細胞(CAR)が骨髄ニッチを形成するという発見を様々なノックアウトマウス等を使って示されました。

  • 石井優博士石井優博士
    石井優博士
  • João Pereira博士João Pereira博士
    João Pereira博士
  • 長澤丘司博士長澤丘司博士
    長澤丘司博士
  • 質疑応答質疑応答
    質疑応答

セッション6

セッション6では、松田道行領域代表が蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づくバイオセンサーを安定発現するトランスジェニックマウスを用いることで、皮膚で細胞増殖刺激が伝搬するメカニズムが解明されたとの発表をされました。
Won Do Heo博士はGFP蛍光タンパク質の活性を制御するLARIAT技術やオプトジェネティクス技術など最新の操作法に関わる発表をされました。
Michael Lin博士は神経電位の変化を検出するバイオセンサーASAPが、従来のカルシウムセンサーよりもはるかに時間分解能が高いことを示され、新たな研究ツールとして神経科学者の注目を集めました。
最後に小澤岳昌博士は様々なオプトジェネティクスツールを作りAktを始めとする細胞内情報伝達分子が制御できることを紹介されました。単に形態を見るだけでなく分子の機能を見る、あるいは分子を操作することでイメージングを使った研究の幅が格段と広がることを示したセッションでした。

  • 松田道行領域代表松田道行領域代表
    松田道行領域代表
  • Won Do Heo博士Won Do Heo博士
    Won Do Heo博士
  • Michael Lin博士Michael Lin博士
    Michael Lin博士
  • 小澤岳昌博士小澤岳昌博士
    小澤岳昌博士

セッション7

セッション7では、福原茂朋博士とSuk-Won Jin博士がゼブラフィッシュを使った蛍光イメージングにより血管新生過程が詳細になることを示されました。胎生期ゼブラフィッシュはさまざまな変異体が利用でき、かつライブイメージングが容易であることから、脈管発生過程の解析において非常に役にたつことを示した研究となりました。
また、高島成二博士はATPのFRETバイオセンサーを使って、心筋における酸素の供給とATP濃度の関係について発表されました。
最後の演者となった西村智博士は、血管における血栓形成過程やメタボリックシンドロームにおける脂肪組織への炎症細胞浸潤など広範な組織での病態解明に多光子顕微鏡を使ったライブイメージングが強力なツールになることを発表されました。

  • 福原茂朋博士福原茂朋博士
    福原茂朋博士
  • Suk-Won Jin博士Suk-Won Jin博士
    Suk-Won Jin博士
  • 高島成二博士高島成二博士
    高島成二博士
  • 西村智博士西村智博士
    西村智博士

ポスターセッション

ポスターセッションは初日と二日目に分かれて発表がありました。
一つひとつのテーマについてはご紹介できませんが、多くの参加者が集まって熱気があふれる活発な討議が行われました。またBetzig博士は若い研究者に大人気でした。記念写真を撮ってもらいたいとの希望ににこやかに応じてくださっていました。また海外からの招待講演者も熱心に討論に参加し、本研究領域の若い研究者にとっては貴重な体験になったと思われます。

  • ポスターセッション1ポスターセッション1
    ポスターセッション
  • ポスターセッション2ポスターセッション2
  • ポスターセッション3ポスターセッション3
  • ポスターセッション4ポスターセッション4

ランチョンセミナー

ポスター会場にはまた15社の展示ブースもありました。
蛍光イメージング研究領域の発展には顕微鏡を始めとする研究機材や研究試薬の発展は欠かせないものであり、このブースで企業の開発者と研究者と情報交換できたことは大変に意義深いものであったと思われます。
また、オリンパス社の提供によりランチョンセミナーが開催され、岡田康志博士、谷口英樹博士、永楽元次博士が、超解像顕微鏡やライブ立体観察の重要性について発表されました。

  • 岡田康志博士岡田康志博士
    岡田康志博士
  • 谷口英樹博士谷口英樹博士
    谷口英樹博士
  • 永楽元次博士永楽元次博士
    永楽元次博士

懇親会等

以上のように盛りだくさんの研究発表があり、3日間でもまだ聞き足りないという感じもあるシンポジウムとなりました。多くの講演者が発表で述べていたことですが、蛍光イメージング領域の研究発展には、生物系、物理系、情報系の少なくとも三領域の研究者が必要です。シンポジウム中のコーヒーブレークや懇親会などでは活発な討議が行われ、これらの領域の相互交流が進んだと思われます。

  • 懇親会の様子01懇親会の様子01
  • 懇親会の様子02懇親会の様子02
  • 懇親会の様子03懇親会の様子03
  • 懇親会の様子04懇親会の様子04
  • 懇親会の様子05懇親会の様子05
  • 懇親会の様子06懇親会の様子06
  • 懇親会の様子07懇親会の様子07
  • 懇親会の様子08懇親会の様子08
  • 懇親会の様子09懇親会の様子09
  • 懇親会の様子10懇親会の様子10
  • ゲストパーティーゲストパーティー
    ゲストパーティー
  • 事務局事務局
    事務局

「蛍光生体イメージ」領域は本年度で終了ですが、ここで播かれた種が来年度以降に芽をだし、花が咲くことを期待させてくれるシンポジウムであったと思います。

末筆になりましたが、本シンポジウムの開催を後援していただきました下記の機関、財団にお礼を申し上げます。
国立大学法人京都大学
京都大学教育研究振興財団
持田記念医学薬学振興財団
テルモ科学技術振興財団
ノバルティス科学振興財団
内藤記念科学振興財団松田道行 記)